クロスカントリーを走る
みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
今回は『クロスカントリーを走る』というテーマでお送りします。
記事では、“クロスカントリー“のレースにおける戦略や疾走感覚、クロカンをベースとしてトラックに繋げていく流れなどを紹介していきます。
目次
1 クロスカントリーの特性 “疲労”
2 クロスカントリーのレースペース “余力の配分と判断力”
3 クロスカントリーのレースが体に及ぼす影響 “各能力を刺激し、総合力で走る”
4 クロスカントリーで用いる走技術 “エネルギーシステムと技術”
5 クロカンからロード・トラックのレースへ “クロスカントリーシーズンのトレーニングを活用する“
6 クロスカントリーを得意とするには…
今回は3・4を紹介していきます。 ※1・2の記事へ ※5・6の記事へ
3 クロスカントリーのレースが体に及ぼす影響 “各能力を刺激し、総合力で走る”
クロスカントリーでは、コースによる様々なペース変化・ランニング動作の変化の中で
スピード
スタミナ
筋力
呼吸
といった各能力を最大限もしくは高い割合で発揮しなければなりません。
こうした能力をエネルギーシステムで分類していくと以下のようになります。
① パワー:急減速と急加速・ジャンプ など
② スプリント:緩やかな斜面の上り下りの技術・スプリントフィニッシュ など
③ 無酸素:急傾斜の上り など
④ 有酸素:上り・平らな場所でのペースアップ など
⑤ LT:下り・平らな場所での回復 など
⑥ 筋持久力:ジャンプ・スプリント・アップダウンでのランニングの継続を含めた運動の継続
レース中にはこれらの能力をコース状況に応じながら発揮します。圧倒的な有酸素能力(Vo2)と、高いレベルのLT能力を有していることが、クロスカントリーをハイペースで進めていく、集団の中でゆとりをもって進めていくうえで重要です。
しかし、トラックの走力がそのままにクロスカントリーに繋がらないということは非常に興味深いポイントです。
それは、トラックのように“同一リズム“で走り切ることができず、レース中に様々な能力や違った走動作をコントロールしなければならないためです。
各能力を総合的に高めておくことがクロスカントリーのレースで力を十分に発揮するために必要と言えます。
クロスカントリーのレースに備えたトレーニング
クロスカントリーで好成績を収めるには、十分に
・ 有酸素能力
・ LT能力
これらをトレーニングしておくことが不可欠です。クロスカントリーのほとんどの時間はこのどちらかの能力を最大限に発揮し続けなければならないためです。
平坦・上りでは有酸素、下りではLTとなると思います。特に下りの区間で上手に回復できるかは、選手のLTレベルによって大きく変わるところだと思います。
そのため、
“高強度のインターバルトレーニング“と”テンポ走“
を組み合わせて行っておくことが有効な準備と言えそうです。
しかし、秋~冬にかけて行われるクロスカントリーシーズンに“高強度インターバル”(速いペースで短い距離の疾走とリカバリー)を行っている選手はあまり見かけません。というのも、
・ 冬シーズンには屋外で最大スピードを出すことが難しくなること
・ 持久的なトレーニングと技術的なトレーニングが中心になること
・ クロスカントリーのレースを年間の最大の目標としている選手は少ないこと
上記のようなことが考えられます。
冬シーズンは特にLTとロング走をメインのワークアウトとしている選手が多く、“高いレベルのLTベース“と“十分に強化された筋持久力“でクロスカントリーのレースに臨む選手がほとんどです。
最近は日本でも主流になりつつある“ファルトレク”なども有効と言えます。このファルトレクによるスピードの変化と維持、さらには起伏が加わることによって有酸素・LTの能力を十分に刺激できると考えられます。
4 クロスカントリーで用いる走技術 “エネルギーシステムと技術”
クロスカントリーのレースでは、“有酸素能力”・“LT”が重要であることを前述しました。
しかしそれらの能力だけで、レースをゆとりを持って進められるか、すぐにゆとりがなくなってしまうかは決まりません。
“有酸素”・”LT“といった能力を上手に発揮する、もしくはセーブするポイントとなるのは、コース状況に応じた力の使い方にあります。
例えばハードリング技術の良し悪しは、ジャンプに要する“パワー”やハードリング後の”加減速の有無”に繋がります。そういった技術的要素、レース中の体の使い方、これらが体力を回復できるか、温存できるか、もしくは浪費してしまうかということに密接にかかわってきます。
① アップヒル:臀部・ハムストリングで押していく動き など
② ダウンヒル:ブレーキをかけずに脚を素早く挟み込んでいく動き など
③ ハードリング:大きく跳ねずに、前方へ必要な分だけ大きく移動する動き など
④ カーブ:左右へのスムースな体重移動 など
⑤ ジャンプ・ストップ:完全に止まらずに、次の動作への切り替え など
⑥ ペース配分(判断力):集団の中での周りのペースの変化にスムースに対応する など
特に
上り坂の技術とペース配分
→ 坂をどのくらいの努力感で駆け上がるのか、上がった後の余力の予想
下り坂の技術と回復
→ 下り坂をスムースに走りながら、心拍を回復させる
ハードリング
→ 止まらない、上に跳ねない、クリア後の体への負荷とスピードのリカバリー
カーブ
→ どの部位で地面をプッシュしているか、踏ん張っているか、相手とのコース取り
ストップ
→ 川や池で失われたスピードのリカバリー、焦らない
ペース配分
→ きついところでの状況判断、我慢するか、少し引くか
上記の要素は、秋から冬のトレーニングの中で十分に補える要素であると考えられます。
むしろ、冬シーズンは各能力を少しずつ強化していくことが、ベースとなる“筋持久力”のトレーニング同様に重要です。
上り坂のトレーニングによる、“パワー”・“ピュアスピード”・“臀部の使い方”
下り坂のトレーニングによる、“ピュアスピード”・“最大下スピード・“足さばき”
ハードルドリルによる、“可動域改善”
ジグザグ走による、“俊敏性改善”
ジャンプ・ストップ・プライオメトリクスによる、“筋力・神経系強化”
こうしたトレーニングは、中長距離のレースで発揮される能力とは離れたところに位置しています。しかしこれらのトレーニングがベースとなって、トラックやロードで発揮できる“スピード”に繋がっていきます。
秋冬シーズンに、持久的ベースの“筋持久力”・“LT”の能力を向上させることが、トラックシーズンの“有酸素”能力向上のベースになることは中長距離選手であれば、誰しも経験したことがあると思います。
クロカンシーズンで必要となる、変則的な様々な動きを各状況を切り取ってトレーニングすることによって、トラックシーズンにおける最大スピード、最大下スピードを発揮するための“ベース”になると私は考えています。
クロカンのレースを走れば“パワーがつく”とよく言われます。しかし私は“クロカンレースを走ること=パワーの強化”とは考えていません。
効率よくクロスカントリーのレースを走れる準備によって、“パワー”がつき、さらにレースを走ることによってその強化が良い方向に進んでいるかといった進捗状況を確認できるものだと思っています。
各能力を少しずつ刺激して総合的な“ベース”を固めておくことがクロスカントリーの準備として必要になります。それは100mの走力の向上やハーフマラソンの走力の向上といったレースとタイムが結びついているものではなく、さらに走種目から離れた部分の基本的なところといってもよいと思います。