みなさんこんにちは。
酒井根走遊会です。
今回は『クロスカントリーを走る』というテーマでお送りします。
オーストラリア、ニュージーランドを通じて秋・冬のクロスカントリーシーズンは9回となりました。来年で10年目となり、いよいよ日本で過ごしてきたシーズンを上回る日が近づいてきたように感じます。10年目の節目の年に、今までの経験・知識を糧として良い結果が出るように調子を上げていければと思います。
今年は冬シーズンのメインレースとして、
“NZXC“(ニュージーランド・クロスカントリー選手権)
”NZ Road Championships“(ニュージーランド・ロードレース選手権)
でのメダル獲得を目標として取り組みました。
結果は以下の通り
NZXC 9位
NZ Road Championships 5位
私はもともとクロスカントリーに苦手意識があり、オーストラリア/ニュージーランドでのクロスカントリーであまりいい成績を残せたことがありませんでした。
しかし毎年クロスカントリーのレース中の感覚・走り(戦略だけでなく、レース中に変化する感覚、ランニングフォームなど)を少しずつ改善することができ、昨年のWellington XCでの3位という結果と共にようやく自信をもって“クロスカントリー“のレースのスタートラインにつけるようになりました。
今回の記事では、“クロスカントリー“のレースにおける戦略や疾走感覚、クロカンをベースとしてトラックに繋げていく流れなどを紹介していきます。
目次
1 クロスカントリーの特性 “疲労”
2 クロスカントリーのレースペース “余力の配分と判断力”
3 クロスカントリーのレースが体に及ぼす影響 “各能力を刺激し、総合力で走る”
4 クロスカントリーで用いる走技術 “エネルギーシステムと技術”
5 クロカンからロード・トラックのレースへ “クロスカントリーシーズンのトレーニングを活用する“
6 クロスカントリーを得意とするには…
今回は1・2を紹介していきます。 ※3・4の記事へ ※5・6の記事へ
1 クロスカントリーの特性 “疲労”
クロスカントリーのレースを全力で走った後には、
“マラソンを走った後のような倦怠感“
”脚の重さ“
“筋疲労”
といったものが残ります。これはレース後2・3日間くらいは続きます。
なぜこれほどまでに疲れるかというと、コースが大きく関係しています。
NZのクロスカントリーコースは、
・ 泥・芝生・土
・ 急斜面
・ 急カーブ
・ 川・池
・ ジャンプスポット
など様々な障害があります。
タイムで単純には比較できませんが、NZの多くの10㎞のコースで、10000mのトラックのベストから3分~10分ほど遅くなります。※また正確に10㎞でないことが多い
多くのコースで5㎜ピンのスパイクはほとんど役に立たず、9㎜ピンのスパイクが推奨されることが多いです。
そうした厳しいコースを全力で走ると、多くの場面で急激な減速と加速、力強い脚の引き上げ、急カーブを切り返すキックやジャンプなど、大きなパワーを断続的に発揮しなければなりません。
そのためレース後に大きな筋疲労に見舞われます。
この回復にはマラソン後のような“回復”期間が必要になるように思います。もちろんマラソン同様に回復に要する時間は、今まで行ってきたトレーニングベースや選手の種目特性にもよると思います。私の場合は4日以上の軽いトレーニング日が必要であると感じました。
こうしたレースではトレーニング効果として、“筋持久力の向上”だけでなく、“パワー”、“VO2”、“CV・LT”といった能力も大きく刺激します。
前述した内容から、筋持久力が向上することは読み取れると思います。
次の章からは、“パワー”・“Vo2”・“CV/LT”といった能力の刺激のされる要因に関しても考察していきたいと思います。
2 クロスカントリーのレースペース “余力の配分と判断力”
クロスカントリーのレースでは、レース中、常に状況分析・状態判断をする必要があります。
これはトラックやフラットなロードレースとの大きな違いと言えます。
トラックやフラットなコースのロードでは、相手のリズムや決めたペースにリズムを合わせて淡々と勝負所まで“無心”になって進んでいくことができます。
もちろん戦略的なレースではそうもいきませんが、記録を狙うレースでペーサー、もしくは同じくらいの目標の選手が多数いる場合には、均一に慣らされたペースとリズムで進行していきます。
対してクロスカントリーのレースでは、地形や走路・周回で変化するコース状況などで、一定のペース・リズムを刻むということはほぼ不可能です。さらに目視で確認できるペース配分もありません。(あるとすれば、レースが同一の周回コースであり前のラップよりも速くなったか遅くなったかというくらい。)
昨年と同一コースで行われたとしても、天候やランナーによって変化するコース状況では、同じペースを同じ感覚で走るということはできません。むしろそういった先入観は、失敗をする大きな要因となります。
では何を指標に選手はレースを進めるのでしょうか?
ペース配分を決める大きな要因は二つあります。
① 集団のペース
② ゆとり度
① 集団のペース
勝利を目指して、優勝を狙って走る場合には、先頭集団でレースを進めることが必須の条件になります。クロスカントリーというコースの特性上、下りからの上り、川や池といった場所では極端にペース変化が起こります。そのため、牽制するレース、戦略的なレース、という状況にはなりません。コースがすでに戦略的と言えるので、その中での自分の全力を出し切れそうなペースで進みます。レースの前半は集団の中にいやすいので、第一集団もしくは第二集団のペースがそのままその日の自分のレースペースになることがほとんどです。
② ゆとり度
勝利を目指して集団の中で、もしくは集団を引っ張る場合においても、自分でペースを判断する場面は多々訪れます。その時に何を指標にペースを判断すればよいのでしょうか?最も感性を研ぎ澄ませなければならないポイントは“ゆとり度”です。
トラックやロードレースのゆとり度は、
・ “きつくないか?”
・ “きつすぎないか?”
・ “今のペースであとどれくらい走れるか?”
・ “どこで仕掛けられるか?”
といったところだと思います。
対してクロスカントリーでのゆとり度は、
・ 平坦な場所・坂を上っている時にどれくらい力を残しておけるか?
・ 上り切った後・下り坂でどれくらい回復できるか?
・ 障害ジャンプでの出力・川から出た後の加速でどれだけ力を使うか?
・ 泥セクションの足さばきでいかに力をセーブするか?
といったように、走技術、エネルギーシステムを選択しながら余力の配分を考えます。そこにペース配分が付いてくると考えるとよいと思います。
最初からペースを決めて走ってしまうことは、これらの判断力を失わせて、自分の余力“ゆとり度”を確認しないことに繋がり、クロスカントリーレースでの後半の大きな失速の原因となります。
対して、こうした自分の余力“ゆとり度”を確認しながらレースを進め、クロスカントリーレースの中で100%の力を出し切れるようになることは、レースで力を出し切っていい結果に繋げられるだけにとどまりません。
各エネルギーシステムをレース中に十分に発揮することで、それぞれの能力を総動員・刺激し尽くし、現在の“中長距離選手”としての能力を確認することができます。