春が来て、誠たちも高校3年生になった



いよいよ公式戦の時期が近づいてきた


誠は54キロのバンタム級、そのすぐ下の51キロフライ級に進之介、さらにその下の48キロのライトフライ級に勘吉の出場予定となった


しかし、誠の階級には、ジムからもう一人、バンタム級で田所のエントリーがあった


一年早くジムに入門していて、実力も申し分ない田所が同じトーナメントにいることになる


誠は勝てる気はしなかった



でも、一回戦でいきなり田所と試合する訳ではない


誠と田所が勝ち続けて、どこかで試合になるかもしれないが



出場予定の公式戦はインターハイの県予選であった



その階級での選手がトーナメントに勝ち上がり、優勝した1名が全国大会に行ける



誠は練習して1年だし、同じ階級には別の高校生もいる


何より田所がいる



誠の中で優勝とかは考えていなかった



それよりも早くボクシングを辞めたかった


毎日、学校が終わってからの4時間練習と週6日、そしてたまに日曜練習と、何より会長からのシゴキ、たとえ自分が暴力を振るわれていなくても、別の選手が会長から暴力を受ける姿を見るのが辛かった



前にも述べたように誠は少し鬱症状になっていた



自分はスポーツには向いていないしボクシングにも向いていない



テレビで見るような選手にはなれない、そう誠は自覚していた



考えが無謀な17歳であれば将来の夢は世界チャンピオンと豪語するであろう



しかし誠にはそのような考えは毛頭なかった



どうしたらボクシングを辞めることができるか、どうしたら会長に殴られずにジムを離れることができるか、それだけを考えていた



誠は高校3年生の担任に、将来の夢は公務員と答えている



この時から自分の性格を知っていたのかもしれない



勝手な公務員のイメージだが、民間みたいにノルマに縛られない



定時で帰りやすい、クビにならない、生活が安定する




といった自分のような社会的弱者が生きるには公務員という安定した平穏な日々を望んだ




未来ある高校生にとって面白味のない人生の選択であった