画面をクリックするとYouTubeにつながります。4Kでご覧いただけます。
三重県の中央部を東西に流れる櫛田川中流域の集落には正月の第2日曜日にどんど火を焚きます。松阪市飯南町にあるこの地区では大小の左義長を師走の第一日曜日に作ります。左義長は高さが8メートルあります。
今はどんど火保存会の方が作っていますが、半世紀前は中学生が作っていました。中学生達は河原に一メートルほどの穴を掘ります。その上にトタン板を引いて屋根にします。前日の夕方に中学生達は集まり、そこで寝ずの番をします。そして、他の地区のどんど火を壊しに行きます。どんど火を壊された地区の中学生達は壊された左義長を見て呆然としています。どんど火を他の地区の中学生達から守り抜くことは自分たちが一人前と認められる証となります。壊された地区のおじさんが鎌を持って追いかけてくることもありました。さすがに今では大人が作るので静かなものです。穴の中でたき火をして煤で真っ黒になった顔を川の水で洗う中学生は大人の顔をしていました。そんな武勇伝を語ってくれた古老達も今はいません。
小学生が松明に火をつけました。左義長の周りに火をつけます。乾いた笹の葉は爆発的に燃えます。このような行事は、全国どこにでもあり、井上靖が小説の「しろばんば」で「どんどん焼き」として、描いています。伊豆半島では、書き初めをどんどん焼きに投げ入れて、高く舞い上がると習字の腕が上達すると思われていたようです。少女が投げ入れた「少年老いやすく、学なりがたし」と書いた紙が焼けていく様子を、井上靖は叙情豊かに描いています。この地区では先端につけた御幣が一瞬に燃え尽きると豊作になると言われています。今年は瞬く間に燃え尽きました。
爆発的に燃える笹の葉は一気に燃え尽きて火の粉を漆黒の空にまき散らします。やがて火は竹に移り、竹の中の空気が膨張し、爆発音が香肌の狭い谷々に「バカーン、シュー、ポカーン、シュー」とこだまします。砕け散る火の粉は南天にあがってきた夏の星座サソリ座を焦がしてしまうほどです。その頃には空が白み始め、人々は焼けた石で餅を焼きます。餅はなぜか甘くなります。この焼き餅を食べると一年間が健康に暮らせるとか。
家に帰ると七草がゆが作ってありました。冷えた体の五臓六腑に染み渡ります。