雨が上がったばかり。今日は晴れるらしい。稲荷山公園の緑が濃くなった。伊勢三山の白猪山は中央に見えて尊い。嶺々が棚田に映ってシンメトリーになっている。この景色ももうしばらくの間。苗が育てば水面も稲で覆われる。
オタマじゃくしからカエルになったのが上陸した。エラ呼吸から肺で呼吸へ。水中の世界から陸上の世界へ。新しい世界はどのように見えるのだろうか。水の中から見ていた空はこんなに高く見えるのだろうか。水の中から見ていた地上はこんなに広く見えるのだろうか。
彼は見ている。三十億年前に生命が地球に生まれて、海の中から陸に上がったときのことを。彼は思い出している。遠い祖先が上陸した日のことを。
空をすいすい泳ぐアメンボ。後ろ足をキックすると波紋ができて青空が映らなくなる。いったい今日もどこへ行こうとするのか。止まれば、また、青空が見える。
苗の分蘖(ぶんけつ)が始まった。苗は三本ずつ植えるが、この時期、株が増殖する。紀伊半島は梅雨のまっただ中、水田の水を少なくして根っこを伸ばしたい。根っこから思いっきり養分をとり、強い日差しで甘い米を採りたい。でも、お天気は気まぐれ。定期的に雨が降るから中干しにはならない。水の欲しいときは雨不足になる。
ネギが折れてしまった。もちろんこれはネギの作戦。もう茎を高く伸ばす必要がない。トウの先端にはいっぱい種がつまっているから。新しい命はこの種に託された。やがて種は土に落ちてまた、新しいネギが出で来る。
倒れたネギはやがて腐り、根っこから新しい芽が出てくる。そして、また、新鮮なネギになる。種は風に運ばれて新しいネギの芽が出てくる。自分たちはそれで食べさせてもらってる。
雨が上がったら、溝に水たまりができた。オタマジャクシたちが白い腹を上に向けて苦しんでいる。鍬でオタマジャクシをすくい上げて、田んぼに戻した。オタマジャクシたちは水を得て水の中に消えていった。何匹、救出したのだろう。彼らは命を繋ぐことができるのだろうか。
一匹の蝶の羽ばたきが嵐を呼ぶことがあるという。1つのことが上手くいったら、雪だるま式にいいことが連続で起こったらいいのに。雪だるま式に幸せが大きくなって、広がって、地球全体を覆えばいいのに。