ハブサンのミニドローンzino mini proで安乗灯台を空撮しました。西高東低の冬型の気圧配置が強い北西風を否応なしに安乗崎に吹き寄せています。こうした荒波が岬を痩せ細らせ、断崖絶壁を形作ったのでしょう。
岬の向こうには安乗漁港が見え、狭い岬にへばりつくように集落が見えます。ここは安乗文楽の里。今でも中学生が文楽を受け継いでいます。岬にはさらに小さな細々とした岬があります。それはすべて南東方向を向いています。これは太平洋プレートが南東から押し寄せ、岩盤が弱いところに玄武岩質の溶岩がせり出したためです。その典型的な地形は、和歌山県の橋杭岩に見られます。
さらに岬と岬の間には大小の断崖洞窟が見えます。熊野市の青の洞窟のような大きさはありませんが、黒潮がつくった浸食地形です。
岬には白亜の灯台があります。白い波頭が立っては引いて、留まるところがありません。ここは一瞬さえ同じ景色を見せてはくれません。それは世の中に不変なものが無いのとよく似ています。岬は常に波濤に削られ、痩せ細っていきます。
不思議なのは内海の方が激しく波が押し寄せていること。むしろ外洋の方が波は穏やかです。バードビューでしか見えない光景です。海は青いと言うけれど、こんなに純白です。
空高くどこまでも碧い空に鈴鹿おろしが吹いています。海はどこまでも蒼く蛇行した黒潮が熊野灘のスタート地点に押し寄せています。黒潮踊る熊野灘。この常套句の起点は志摩半島から始まり、その終点は和歌山県串本町の潮岬で終わります。そして終着駅にもやはり潮岬灯台があります。潮岬灯台は母のように大きく貴婦人のような形をしています。安乗灯台は小さく四角い変わった形をしていて男性的です。
紀伊半島の東側には、安乗灯台、波切灯台、神島灯台、潮岬灯台、樫野灯台と美しい灯台がありますが、どの灯台も登ることができました。神島灯台は職員が不住となり今は登ることはできません。樫野灯台は階段が整備され昼間は解放されています。その他の灯台は、入場料300円を払えば、登ることができます。
今はどの船にもGPSがつけられ、かっての灯台の役割は終えていますが、岬の先端にある白亜の構造物の美しさは変わりません。機能的な物はどれもが美しいのは灯台も同じなのでしょう。日本のGPS衛星「みちびき」が打ち上げられてからはその誤差は2m以内です。この安物のドローンでさえ60cmの着陸パッドにピンポイントで下りてきます。
ここに来ると日常では気づかないことがいっぱい触発されて新しいことが浮かんできます。実際にここで触れて、見て、感じれば脳内は活性化されていっぱい言葉が生まれます。ここほど世の中が無常なことを感じることはないかも。無常とは常に移り変わっていることです。変化しないものは世の中にはないことを教えてくれます。風が常に吹き、波頭が立ち、海の形はいつも変化しています。縦波横波が複雑に交差し、三角波が作られると、波濤が突堤の小さな灯台を越えていきます。風が木々や草花をなびかせ、何一つ同じ形を留めません。海を越えてやってきたフジバカマに群がるアサギマダラでさえ、一瞬止まったかと思えば次の蜜を求めて飛んでいきます。
不思議なのは内海の波が荒いと言うことです。おそらく安乗岬と菅崎との地形が外洋の波を吹き絞るため、波の高さが増幅されるからなのでしょう。荒れた波は荒れるだけ荒れさせて、的矢湾まで来ると波は凪いでいます。波消しブロックの突堤にある灯台の高さまで波は押し寄せては去って行きます。的矢湾は漫画「おいしんぼ」で的矢牡蠣として有名です。フランス料理でも生で出すのは牡蠣だけ。そのルーツはこの小さな漁村から始まりました。オバマ大統領やメルケル首相が志摩観光ホテルに集ったサミットでも食卓を飾りました。三重は「美し国 うましくに」と神話の時代から呼ばれ、山の幸海の幸が豊富で、食材の美味しさは群を抜いています。
そんな馬鹿なと思われるなら、実際にここに来て感じてください。今朝は遠くに富士山が見えました。200km以上も離れている海の向こうに富士山が・・・ そう、ここに来れば運がよければ見えます。風の強い夜明け前、快晴で渓谷から放射冷却で沸き起こる朝霧を吹き飛ばした朝、海に浮かぶ富士が見えます。
空の碧、海の蒼とどちらも「あお」と読みますが、一体水平線はどんな色をしているのでしょう。空と海の境目は今日はくっきりと見えます。春になると霞が出て、海と空の境目は見えなくなります。遠くには神島が見え、その向こうには愛知県の渥美半島が。その奥には富士山が見えます。おばあさんが言うように今朝は富士山が見えていたのでしょう。もう少し早く来れば、見えたのに。時の流れに美しい物が流れています。時は流れ空間は広がっています。遙かなる時空を越えて、志摩は今日も美しい。その一瞬一時を今、画像で切り取ってみました。