峠にはトンネルがあるものです。これを超えると新しい集落あります。
油田公園は新型コロナウイルスのため閉鎖されています。まもなくイチョウが色づく季節なのに。映画「きいろいゾウ」のロケ地です。今も地元の人が綺麗に整備しています。
なにやら山頂は土塁が築かれています。さては中世の山城か?
山頂から見る多気町の景色。ここは五箇氏が築いた篠山城です。急斜面を笹が覆っていて難攻不落の城でした。織田信長の勢力がここを攻めたとき、笹が枯れるのを待って焼き払いました。火のついた笹は山頂まで燃えに燃えて、城はあっけなく落城。ここのお姫様は井戸に身を投げました。敵に恥を見せるより死を選びました。今はそんな悲話も知らず、秋風が冷たく吹き渡っていきます。
左には大豆畑が収穫を待っています。右には収穫を終えた田んぼが一休み。秋の空は高く見えます。
日陰には小待宵草がひっそりと咲いています。宵に誰を待っているのでしょう。黄色い花びらが薄くて半透明。よく見ると花びらの先端は透き通っています。
黄色い野菊。隣には白い野菊。伊藤左千夫が「野菊の墓」を書きました。夏目漱石が絶賛した小説です。その一節に・・・
民子は一町ほど先へ行ってから、気がついて振り返るや否や、あれッと叫んで駆け戻ってきた。「民さんはそんなに戻ってきないッたって僕が行くものを……」
「まア政夫さんは何をしていたの。私びッくりして……まア綺麗な野菊、政夫さん、私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き……」
「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
民子は分けてやった半分の野菊を顔に押しあてて嬉しがった。二人は歩きだす。
「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」
いとこ同士の民子と政夫。政夫を中学に行き、民子は嫁に行く。民子は病を得て亡くなる。お互いに好きとも言えず、当時の社会のしきたりや親たちの思いに負けて、完結できなかった想いを作者は見事に描きました。秋の野原に菊が咲いているとこの小説の一節が思い出されます。