木枯らしが吹く伊勢の海 勝手に映画解説 | バイカルアザラシのnicoチャンネル

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 サイコロジストの日常と非日常を季節の移ろいを交えて描いています。バイカルアザラシのnicoちゃんの独り言です。聞き流してください。

 木枯らしが吹く伊勢の海。西高東低の冬型の気圧配置で大陸生まれの木枯らしが日本海を渡ると湿った空気を鈴鹿山脈に吹き付けます。すると鈴鹿の峰々は真っ白に雪をかぶります。鈴鹿おろしは鈴鹿の峰に雪を下ろすと、空っ風になって伊勢湾に吹き付けます。

 

 ドローンをあげているのは松阪市の高須海岸です。向こう岸がかすんだところに津市の香良洲という雲出川が作った三角州があります。

 

 河口にできる典型的な美しい三角州です。今は農地になっていますが、戦前はここに飛行場があり予科練の基礎課程が置かれていました。ここで訓練を受けた飛行士が250㎏爆弾を積んで特攻に行ったと言います。

 

 この航空地図は1960年代前半の物ですが、東側に飛行場の跡が残っています。ミッドウェー海戦以降、日本の航空隊は壊滅的な打撃を受け、特攻隊は練習機で出撃しました。当時最速のゼロ式戦闘機や熟練した戦士達はいなくなり、木製の飛行機まで作る状況でした。アメリカ軍は日本の戦闘機を七面鳥打ちといってとことん撃ち落としました。

 

 海に出て 木枯らし帰る 所なし

 

 先日、山口誓子先生の一句を紹介しましたが、先生は昭和19年11月に伊勢で療養をされていました。この一句は、特攻隊員に向けて詠まれたものです。そうするとこの一句は単に鈴鹿おろしが伊勢湾に出て帰るところがないなんていう句ではありません。本当は木枯らしも帰るところがあるのでしょう。しかし、今は戦時下。帰ることは許されません。片道燃料に250㎏爆弾を積んで帰らぬ海に出撃していく若者。それを木枯らしに象徴して詠まれたのでしょう。なぜかこの十七音には寂寥感が漂っています。この戦時下、彼らの武運長久を祈るしかない。この一句には透徹した自然描写の裏側に太平洋戦争という激動の昭和史が読み込まれています。

 

 特攻と言えば、航空機によるものがありますが、水上特別攻撃も行われました。日本海軍旗艦戦艦大和です。昭和20年4月7日14時23分、北緯30度22分17秒 東経128度04分00秒にアメリカ軍の航空機に沈みました。3000名の乗組員の内生還したのは269名でした。東映が「男達の大和」として映画化しました。長渕剛さんの「close your eyes」はラストシーンで全曲が歌われました。

 

 

 YouTubeのプロモーションビデオです。2005年の作品です。どのシーンも壮絶です。赤ちゃんから老人まで戦時下をどのように生きたか。私たちは今日をどう生きるのか、問いかけられる作品です。戦後60年を記念に作られた作品だけあって、一度は見ておく映画です。iTunesストアでレンタルできます。

 

 

 この作品は近い将来日本近海で起こるかも知れない話が出てきます。海上自衛隊の誇りは専守防衛に徹していること。1954年の発足以来それを守り通してきました。そのことがいかに難しいことか、日本近海で起こっていることを見るとよく分かります。専守防衛という理想を実現しながら、相次ぐ領海侵犯や領空侵犯という現実にどう向き合っていくのか。武力に訴えることがいかに愚かなことなのか。最初から最後まで映画の中に否応なしに浸らされる作品です。月間か年間の会費は必要ですが、アマゾンプライムビデオで無料で見ることができます。