聖バレンチヌスからの手紙
イタリアにテルニという街があります。クラウディオスの治世です。皇帝はローマ兵の士気が下がらないように結婚を禁止しました。司祭は皇帝の命令に背いて、兵士達に結婚の秘蹟を行っていました。彼は教会の庭にある赤い薔薇を贈ったといいます。
このことは皇帝の知るところとなり、バレンタインは牢に捕らわれました。貧しい盲目の少女が毎日のように、司祭の説教を聞きに来ました。司祭は少女に。「あなたがたは互いに愛し合いなさい。」と説きました。乾いた土に雨が吸い込むように、飼い葉桶に生まれた救い主の言葉は、少女の心に浸透していきました。何物にも満たされることのない心の空洞は、たちまちのうちに満たされていきました。司祭は、少女に洗礼を施すと、少女の目は見えるようになりました。
皇帝は司祭が盲目の少女の家族に洗礼を受けたことを知ると、司祭を処刑するよう命令を出します。明日は処刑が執行される。雨が降っていまする。一雨ごとに春をもたらすこの雨は、殉教者の心を潤しました。この季節、地中海では風が吹きます。風が吹き出すと温かくなります。この雨が止んだら春が来る。その夜、バレンタインは少女に手紙を書きました。その最後には、「愛する娘へ・・・・あなたのバレンタインより」と書かれていたといいます。
刻まれた文字は、やがて、魂に届き、光を放ちます。自分の命に替えても、なお有り余る恩みの中で、至福の喜びに浸るような、それでいて、光の国に招かれるようなまぶしい存在と一つになる幸福感。純粋に透明に結晶した言葉がパピルスに記されていました。
目が開かれた少女はあたりを見渡しました。天空はこんなに広く青かったのか。太陽はこんなにまぶしくて、月はこんなに青かったのか。小鳥はこんなに小さくて、驢馬はこんなに大きかったのか。オリーブの葉はこんなに緑で、トマトはこんなに赤かったのか。少女は司祭を見ました。優しいまなざし。美しい瞳。司祭が処刑台に上ることによって、娘の目は開かれ、救われました。
新しい太陽が東の空から昇り、バレンタインは刑場に引き出されました。「助けよ!」「殺せ!」「背教者」「殉教者」民衆は様々な言葉を吐きかけます。彼はほふれらる羊のように何も言わないで黙して動かず、処刑は定刻どおり執行されました。紀元269年2月14日、聖バレンタイン絞首刑にて殉教。列聖される。
今日は、バレンタインデー。本命チョコ、義理チョコ。様々なチョコレートが飛び交うことでしょう。日本では女の子が男の子にチョコレートをプレゼントする日ですが、ヨーロッパやアメリカでは男女を問わずお互いに贈り物をやりとりする日です。
伊勢神宮の外宮の近くにバンデライオンチョコレートのお店があります。このお店は、日本に二軒しかありません。チョコレートの美味しさは、カカオの品質によりますが何よりも大切なのは製法です。いかに美しく結晶させるか。ダイヤモンドが地中の奥深くで激しい熱と圧力で結晶するように、チョコレートは漆黒の部屋でまったく振動のない空間でゆっくりと冷やされて美しい結晶を作っていきます。それはまるで金剛石のような光沢を持ち結晶しています。バレンチヌスが少女に捧げた心も、このように漆黒の静寂な世界で、純粋に透明に結晶したのでしょう。その結晶は言葉となりました。それが殉教者の少女に宛てた最後の手紙になりました。外宮参拝の後は、ここに寄るのがいいです。温かいホットチョコは、冷えた体を芯から温めます。熱くて濃いチョコが泡立ててあり、シナモンや様々な香料が入っていて絶品です。器は陶器ではなく須恵器でできており、これがホットチョコによく似合うんです。