平安時代の文学伊勢物語には、伊勢三山が登場します。局ヶ岳・白猪山・堀坂山です。白猪山の中腹には深野の棚田があり、日本の棚田百選に指定されています。一番高い山が白猪山、その斜め左奥に見えるのが、上郷地区です。
ここから見ると確かに、山よりも高く、雲よりも高く見えます。朝霧が櫛田川に白く溜まっているのが見えます。
こんな花崗岩の石垣、どうして積んだのでしょう。江戸時代宝暦年間、一ヶ月にわたる大雨が降りました。白猪山は、しらいしさん、つまり白い石でできています。山全体が花崗岩でできているのです。ここに豪雨が降れば岩盤は崩落します。土石流が集落を襲い、海になったと当時の史料は記しています。
人々は、土石流で流れてきた花崗岩を積み、今の棚田を作りました。土はフイゴで運びました。白猪山に降る雨は清流となり、棚田を潤します。こうして作り上げた棚田は、山体崩落以前よりも格段に収穫量を増やしました。災いを幸いに変える。ここに生きる人たちの心意気は今でも地区に住む人たちの遺伝子に伝わっています。
太陽が昇ると次第に朝霧は真っ白に光り出しました。棚田の石垣から生えるベゴニア。季節は旬を過ぎて、真っ赤な花から薄紅色に変わります。旬は元気だった深紅が、雲上の寒さに色あせています。なのに弱々しさを感じさせません。石の芸術「深野の棚田」の秋です。




