舞台の開演まで時間があったので、男は駅のまわりを歩くことにした。
昼下がり。曇天ながら、5月の風は薫る。駅前の雑踏を抜け、東へ歩くと陸橋に出た。無数の鉄路が並ぶのを見下ろし進むと、若い女がそれを撮っている。
すらりとした体躯、長い髪が風になびく。オフホワイトのパンツスーツに身を包んだ彼女は何度もシャッターを押す。
「ここ、写真を撮りたくなるよね」
男は声をかけた。何かしら話したくなったのだった。
女は振り向き、微笑んだ。「線路って、一本だと旅愁を誘うのに、こうたくさん集まってたら・・・」言いかけて、再び彼女はファインダーを覗いた。
男は鉄路を見下ろし、そして反対側を仰いだ。広い道路が真っ直ぐ東へ伸びて、山の稜線沿いに雲が流れている。ずっと行ったら東京だ。
少し間を空けて、陸橋の欄干に2人は並んだ。横に密集した鉄路。並ぶとここにいたくなる。
〝近代的な美しさ、必要の美って言うのかな〝。男は独りごちた。すると彼女は「坂口安吾みたい」、くすりと笑う。
雨の落ちそうな曇り空から、かすかに日がさしてきたようだった。
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駆けだす君の 踊る髪は
浅い夏の 罪が香る
隠しきれない胸の高鳴り
C'est si bon、俺を誘う
Lady Cool 手に入れたくて
めぐる思いに 短すぎる夜
Summer Romance キスやタッチじゃ
感じない 上れない Real Love
薄着の下の 厚いガードに
触れて気持ちが また痛みだす
◆花田裕之 with 下山淳 / Lady Cool
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明日の函館SSは、サトノレーヴでいいと思うぞ。