子母澤寛 『座頭市物語』 | Roll of The Dice ー スパイスのブログ ー

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稀に・・・となるかも、ですが、音楽や演劇、書籍について書きたく思ひます。

【本を読もう 7日間投稿キャンペーン】。11冊目は子母澤寛『ふところ手帖』(中公文庫)。
 
 
※「しもざわ・かん」と読みます。明治25 ー 昭和43、幕臣の裔です。
 
氏の代表作『新選組始末記』は生き残りや故老に取材した、娯楽小説というより一級の歴史資料。のちの司馬遼太郎『新選組血風録』もこれに因って書かれたものであるが、子母澤寛は同時に、長谷川伸 - 門下には池波正太郎や『次郎長三国志』の村上元三、『徳川家康』の山岡荘八など ー とならぶ股旅物の先達。
 
本書『ふところ手帖』は格調高い歴史随筆集。『新選組ー』同様、実際に足でたしかめ見聞した事柄に基づいて書いたもの。幕末の剣客にして勝海舟の親戚・男谷(おたに)精一郎とその弟子島田虎之介、榎本武揚と福沢諭吉、鯨侯山内容堂のお妾さんから桜田門外で井伊大老を討った有村次左衛門・・・とりわけ白眉は『座頭市物語』。

座頭市は映画やドラマのなかだけじゃなく、実在の人物。「天保の頃、下総飯岡の石渡助五郎のところに座頭市という盲目の子分がいた。何処からか流れ込んで来て盃をもらった男だが、もういい年配で、でっぷりとした大きな男、それが頭を剃って、柄の長い長脇差をさして歩いているところは、何う見ても盲目などとは思えなかった」。
 
これに目をつけた大映の関係者が映画化。なので、その第1作は文字通り『座頭市物語』(1962)。2作目以降は大映の ー あるいは勝新太郎の ー オリジナルだが、キューバをはじめ世界中で愛され続ける本シリーズには爾来、「原作・子母澤寛」のクレジットが入る。
ふたたび引用。
 
「人間はな、慾には際限のねえもんだ。親分(注:天保水滸伝で名高い飯岡助五郎)も、金も出来、子分も出来、役人達もすっかり手に入ったとなると、その上の慾が出た。出たから人の道を踏み外した。おれはな、親分の兄弟分松岸の半次が、八州さんの桑山盛助の旦那の妾のお古を下げ渡されて大よろこびをしていると聞いたときから、これはもういけねえと思ったよ」
 
「な、やくざあな、御法度の裏街道を行く渡世だ、いわば天下の悪党だ。こ奴がお役人方と結託するようになっては、もう渡世の筋目は通らねえものだ。おれ達あ、いつもいつも御法というものに追われつづけ、堅気さんのお情でお袖のうちに隠して貰ってやっと生きて行く、それが本当だ。それをお役人と結託して、お天道様へ、大きな顔を向けて歩くような根性になってはいけねえもんだよ。え、悪い事をして生きて行く野郎に、大手をふって天下を通行されて堪るか」
 
座頭市は女房おたねに腰を揉ませながら、そうひとりごつ。
平手造酒(みき。映画では天地茂が好演)も含め、映画の設定はほぼ原作どおり。『座頭市物語』はたかだか7ページの短いものだが、幕末維新の混乱の中、市井に生きた人々の手ざわりが、著者の視線とともによみがえる。
 
◆第1作 座頭市物語より

 

「けっ。一日中目ぇつぶってやがって、まだ寝たりねえのか」。←クソ差別♪

 

飯岡の助五郎を演じた柳永二郎氏こそ名優なのだが。

 

◆ときに勝さんの殺陣って、三船さんや近衛十四郎(松方弘樹と目黒祐樹の親父さん)と並ぶ、すぐれもの。強烈。

https://www.youtube.com/watch?v=i0Sb_ZT8c7I&t=15s

 

 

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