約半年を過ごした山小屋の生活の記憶はいまだに現実的で
朝目が覚めてあの狭い四人部屋の固いベッドに居ても
違和感なく山のルーティンを始められそうなくらいだ
だけど浮かぶメンバーは私がいた当時の人たち
もう新シーズンが始まっている今となってはやはり過去
リアルではあり得ない
やっと雪がなくなる七月から賑わう八月へ
どんなに連続猛暑日のニュースが続こうと
九月には秋の風に特有の寂しさが混じり始める
十月紅葉の終わった山が雪に閉ざされる前にと
台風の進路を気にしながら最後の山行へ
なんて短いの
ゆったりに見えて
なんて早いの
人は餌をねだるひな鳥のように
ピーピー騒ぎながら行ったり来たりするけれど
月のない夜の闇と天の川
白みゆく早朝
山並みの向こうの富士山
涼しいせせらぎの音
どこまでも続く野原のような斜面
翼のような雲
山肌を染める夕日
手が届きそうな満月
すべてが毎日表情を変えた
苦しめたのも苦しんだのも人間
私はただの自然として
またあの場所にありたい
そのリアルの
なんと遠く感じられることか