歩いていく。

とてもゆっくりと、会話を途絶えさせないように。

いろいろな、雑多な時計たちを追い越しながら。

ふと見ると、5分速い時計。

五分速いや。。

つぶやくと。

おや、お目が高い。この時計はそれはそれはとてもゆわれのある時計なのですよ。

おお、そうでしたか。。そうでないかとお思っておりました。

してそのゆわれとは?

こちらの老夫婦はそれはそれはまじめで。

テレビであるえらいお坊さんが、人生を変えたければ時計を5分早めるといいとおっしゃいました。

それ以来、老夫婦は自分たちの時計には何でも五分速く働かせているのでございますよ。

なるほど。僕の親戚もそうだよ。すごく普通にいるよ。

僕らは笑いあう。

でも、この時計の力が私は一番好き。

どういう力なんだい?

そうね、ぼやっとしか言えないんだけど、

未来の予定を与えてくれる時計かな。

ちょっと言葉につまる。

僕には与えられないと困るほど、未来には困ってなかった。

未来を喪失する瞬間なんて、とくべつ経験したこともなければ、想像もできない。

経験したことない喪失を現実味をもって発する彼女に、僕は彼女の寂しさしか感じることができなかった。

同情しかできな同調。なんて安っぽい心なんだろう。

とにかく、僕にできる未来を与えようと、

そうだ、今日の深夜番組は特別面白いはずだったよ。

彼女はうつむいて含み笑う。

そうね、やっぱりこの時計は好き。

今夜はベットで添い寝をして深夜のコメディアンをみながら夜更かしするのよ。

なるほど。素晴らしい未来だ。僕も、この時計がとても好きになったよ。

そう、とてもいいやつなの。

そう、この時計たちは時を刻みながら生きている。

彼女の本当の親友たち。

魔力を持った仲間たち。

彼女の友達なら愛想よくふるまわなければなと、

とくべつよそ行きな目配せを時計たちに送った。

時計たちに見守られながら、ホテルへと夜の深みのように足早に吸い込まれていく。

時計たちの冷やかしをかわすように。