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いまや私がいとしさを覚え始めている国よ
この進歩は本当にお前のための文明なのか
この国の人々の質朴な習俗とともに
その飾りけのなさを私は賛美する
この国の豊かさを見
いたるところに満ちている子供たちの愉しい笑顔を聞き
そしてどこにも悲惨なものを見出すことができなかった私は
おお、神よ
この幸福な情景がいまや終わりを迎えようとしており
西洋の人々が彼らの重大な悪徳を持ち込もうとしているように思えてならない
幕末に来日して通商条約の交渉にあたったアメリカ初代駐日公使タウンゼント・ハリスの通訳、ヘンリー・ヒュースケンの日記を引いています。
日本を開港させ、日本を変えた本人が、自分たちのしたことを神に懺悔しています。
変らなければならない、その大潮流の中で、明治の人々は、江戸からの引き継いだ心で自分の道を歩んでいました。
本書は、激動の明治時代を生きた、筆頭家老の娘であった女性の自伝的エッセイ「武士の娘」について、櫻井よしこ氏が読み解いた内容です。
武士の精神はどうしてすばらしいと言われるのか。
その理由が書いてあります。
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■武士の3つの美徳
①律する
②信頼する
③秘する
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○結婚は家と家との間の信頼関係
住むところは何処であろうとも、女も男も武士の生涯には変りもありますまい。
御主に対する忠義と御主を守る勇気だけです。
旦那さまには忠実に、旦那さまのためには何ものをも怖れない勇気、これだけで。
さすればお前はいつでも幸せになれましょうぞ。
○家族同然の武士と使用人の関係
下男下女の実家の方がかえって豊かな商家だったりします。彼らは時として主人よりも金銭的に余裕があります。けれど自らを律し、自己を鍛錬する武士の生き方に敬意を払い、精神を啓発され、まさに家族の一員として主人に仕えました。
○習字で身につける「心の制御」
心の糸の乱れや不注意はおおうべくもなくあらわれますので、一点にも心を落ち着けて正確に筆を選ばなければなりません。このように心をこめて筆を運ぶことを通して、私共、子供は心を制御することを学んだのでございます。
○自由の精神
自由を愛し自由に向かって進む権利を信じていたのは若い頃のことで、真の自由は、行動や言語や思想の自由を遥かにこえて発展しようとする精神的な力にあるのだということが判りました。
○「秘する」日本と「見せる」アメリカ
形あるものにせよ、ないものにせよ、日本人が美しいと感ずるものは、控えめに表現されたものだと思います。能を大成した世阿弥は「秘するが花」をいう言葉を残しました。真の美しさは、己を律してうちに秘め、それを磨くことから自然にこぼれ出るように表現されていくという考えでしょうか。
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「武士と呼ばれる人たちと家族がいかに自らを律して清廉に生きたのか」
「人間に対する思いやりがいかに深かったのか」
「日本人全体がいかに謙虚で美しい生き方を全うした人たちであったのか」
改めて教えてくれます。
厳かに先祖の霊を迎える盂蘭盆の思い出を綴っている文章がありました。
「どこの子供も同じことで、私もご先祖さまをお迎えするのは何となく心うれしく感じておりましたが、父の亡くなりました後は、身にしみて感慨も深く、家族一同仏前に集いますと、心もときめくのを覚えるのでありました」
これほど先祖が身近な存在であり、先祖とともに生きている感覚を、数えで7,8歳の子供が身に付けていました。
今はお盆です。
明日、僕はお墓参りに行ってきます。
先祖が生きてきた道を知ることで、自分の存在が今一瞬だけではないことがわかるのでないでしょうか。
目次
第1章 武家の教育—厳しい躾が人を育てる
第2章 武士の妻—主人を支え家族を守る
第3章 女性の恋愛観—家の結婚は個人を超える人生の大事
第4章 新時代への戸惑い—江戸から明治への揺らぎ
第5章 日本人の死生観—ご先祖様の供養は生涯のつとめ
第6章 男の子育て—子供への父親の無私の愛
第7章 記憶の継承—家族の看取りで完結する日本人の一生
武士の娘 (ちくま文庫)/杉本 鉞子

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