カール・ベーム(1894-1981)が「ベルリン・フィル」を振ったこの録音(1963年6月)は、この曲の「スタンダード」とも呼べる「名演奏」です。
こちらは、そのベームと、「ウィーン交響楽団」の「リハーサル風景」です(「日本語字幕」もあります)。まさに「プロの仕事場」です。その「緊張感」が伝わって来ます...。
この方も「N響桂冠名誉指揮者」です。ヘルベルト・ブロムシュテット(1927-)。90歳を越えた現在もなお「現役」で、「力強い」音楽を聴かせてくれる、まさに「世界のマエストロ」です。「代表的録音」とも言える、「シュターツカペレ・ドレスデン」との名演奏です(「お薦め」です)。
同じ「ドレスデン」を振った、こちらはヴォルフガング・サヴァリッシュ(1923-2013)の録音です。「譜面付き」でどうぞ。
そのサヴァリッシュが「ウィーン・フィル」を振った、こちらも「躍動感」あふれる「名演奏」です。
「11月19日」は、作曲家フランツ・シューベルト(1797-1828)の「命日」です。今年は「没後190周年」(昨年は「生誕220周年」)ということでもあります。
今回も、前回に引き続き、「交響曲」について書いてみたいと思います。
今回は、いよいよ、シューベルト「最大」にして、「最高」の交響曲、「第9(8)番 ハ長調 D.944 "ザ・グレート(大きなハ長調交響曲)"」(1825-28)の「登場」です!!
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12418219281.html(前回の記事)
以下は、シューベルトについてのこれまでの記事です(この他にも、シューベルトの曲について触れている記事がいくつかあります)。
https://ameblo.jp/daniel-b/theme-10098857198.html(シューベルトの「ピアノ曲」の記事一覧)
https://ameblo.jp/daniel-b/theme-10105647345.html(ピアノ曲以外の曲一覧)
今回のこの作品、「交響曲第9(8)番 ハ長調 D.944」は、シューベルトにとって、「完成された交響曲」としては「最後」となったもので(まさに「第9の呪い」...)、この後、最晩年、それも、「死の直前」(1828年10月から11月にかけて)にも、「新しい交響曲(D.936A, 通称「第10番)」の「スケッチ」が書き始められましたが、「完成」には至りませんでした(この、「未完」となった「第10番」にも、ブライアン・ニューボールド教授による「補筆完成版」が存在しますが、「第9番を上回る出来」とまでは言えません...)。
https://www.youtube.com/watch?v=0Swo4GMClek(「第10番」について興味のある方はこちらからどうぞ)
「ザ・グレート」の名でも知られているこの「第9(8)番 ハ長調」ですが、これもまた、「後世の人々」によって付けられた「通称」であり、本来は、「大きな交響曲」を示す意味でしかありません。シューベルトには、1817年10月から翌1818年2月にかけて書かれた、同じ「ハ長調」による「交響曲第6番(D.589, 通称「小さなハ長調交響曲」)」があり、これと「区別」するためのものなのです。
「交響曲第6番」は、曲の「性格」から言っても「第9(8)番」を思わせるものであり、その意味でも、「小さなハ長調交響曲」と呼ばれるに値するものです。
前回も書いているように、交響曲の「ナンバリング」は、「第7番」以降、現在でも「混乱」したままです。
前回の「未完成交響曲 D.759」(1822)まで除いた「完成作品」のみ、という点で言えば、この曲は「第7番」に当たりますが、音楽学者オットー・エーリヒ・ドイチュ(1883-1967)による「作品目録」(1951年)により、「未完成」ながらも「演奏」される、「ホ長調交響曲 D.729」、「ロ短調交響曲 D.759(「未完成」)」の2曲を加えた場合、前者は「第7番」、後者は「第8番」とされ、それらに続くこの曲は、「第9番」ということになりました。
ところが、1978年(シューベルトの「没後150周年」)、この「ドイチュ目録」が「改訂」された際、「自筆譜のままで演奏が可能」という意味から、「第2楽章までは"完成"」と見なされた「ロ短調」が「第7番」とされ、「ハ長調」は「第8番」に改められました。
しかし、「古くからの呼び方」が、そう簡単に変わることには「抵抗」があるようで、現在でも、「未完成」=「第8番」、「ザ・グレート」=「第9番」と呼ぶのが、世界的にも「一般的」です。ですので、このブログでは、この曲の表記は、「第9(8)番」とすることにします。
かつてこの曲は、1828年3月に、「一気に書き上げられた」と言われていました。しかし、自筆譜の最初のページ右上に記された「日付け」をよく見ると、この「1828」の文字が、実は「1825を訂正したもの(または「読み違い」)」であることが分かるということで、「これが実際の作曲開始の時期と見られる」と、ウィーンの研究者、エルンスト・ヒルマーが指摘したことにより、音楽界は「騒然」となりました。
というのも、シューベルトは、1825年の夏に、「上オーストリア」を旅行(5月下旬から、10月の初めまで)した際、「美しいトラウン湖のほとり」グムンデン、次いで、「名高い保養地」ガスタインに滞在し、8月に書かれた「ピアノソナタ第17番 ニ長調 D.850」とともに、「新しい交響曲」の作曲に着手したと伝えられていたからです。
シューベルト自身も、その曲には大変「自信」を持っていたということで、研究者の間でも、「グムンデン・ガスタイン交響曲(D.849)」と呼ばれるようになり、懸命にその「楽譜」が探されていましたが、長らく、「行方不明のまま」とされていました。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12278415154.html?frm=theme(参考:「ピアノソナタ第17番」の記事)
では、この「幻の傑作」は、いったいどこに消えたのか。
かつては、1824年6月に作曲され、シューベルトの「死後」(1837年12月)に出版された、「4手用(連弾)ピアノソナタ ハ長調 D.812 "グラン・デュオ"」が、この「グムンデン・ガスタイン交響曲」の「原曲」ではなかったか、という説がありました。この作品の楽譜を見たシューマン(1810-56)が、「これは、オーケストラ曲の編曲ではないか」と考えたことにより、ヴァイオリニストのヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907, ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲」の初演者)が1855年に編曲したものが録音されてもいますが、現在では、この説は「否定」されています。
その曲がこちらです。
こちらが「原曲」です。デュオ・クロムランクの名演でどうぞ。
先述のヒルマーの説により、その「グムンデン・ガスタイン交響曲」が、実は、この「大きなハ長調交響曲 D.944」そのものを指しているのではないかということになり、現在、「一応」は、これで「決着」しているようでもあります。
その後、「ホ長調による交響曲」(前回書いている、「D.729」とは別の曲)の「筆写譜」がシュトゥットガルトで発見され、これこそが「グムンデン・ガスタイン交響曲(D.849)」だという説が出て来ました。しかしこの曲も、「演奏」され、「出版」され、「録音」までもがされていますが、その主題は、「大きなハ長調交響曲」に「そっくり」であり、実質、その「下書き」であるという説が「濃厚」です。また、シューベルトの「真作」であるという「確証」も、得られてはいないようです。
こちらがその「CD」です(「試聴」出来ます)。「第2楽章」と「第3楽章」の位置は入れ替わっています(ベートーヴェンの「第9」の影響?)。
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Symphony in E Major 1825
1,833円
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「大きなハ長調交響曲」は、翌1826年の春から夏にかけて完成したと言われ、当然のことながら、「初演」や、「出版」が試みられたこともあったようです。しかし、「作品の提出」を受けたウィーンの「楽友協会」は、この曲があまりにも「長大」で、「重苦しい」(「演奏困難」)という理由から、「返却」したということです。
その「時期」についても「諸説」あるようですが、シューベルトとしては、何とかこの作品を「演奏」してもらうために、「徹底的」に推敲を繰り返したのではないかと言われています。その「過程」の1つが、先述の、「ホ長調(D.849)」であるのかも知れません。そして、その「最終的な完成」が、「1828年3月」ということなのでしょう。その後「提出」されたものと見られるものの、上掲の通り、生前に「公的演奏会」で採り上げられたことはついにありませんでした(1826年にも、「一度提出されたのではないか」、とする説もあります)。シューベルトの死後1ヶ月となる、「12月14日」に演奏されたのも、この曲ではなく、「第6番」、つまり、「小さなハ長調交響曲」だったのです。
それから10年(1838年)。ウィーンを来訪したシューマンは、シューベルトとベートーヴェン(1770-1827)の「墓」を詣でた後、シューベルトの兄、フェルディナント(1794-1859)を訪ねました。
シューマンは、フェルディナントから、いろいろとシューベルトの話を聴いたということですが、その時のことを、次のように書いています。
「最後に彼は、いまだ手もとに残っているシューベルトの作品を見せてくれた。山と積み上げられている"宝物"に私は身震いがした。いったい、どれから見れば良いのだろう。中でも、多くの交響曲のスコアが目に留まったが、その中に、まだ一度も人に聴かれたことがないものがあった。それは、あまりに難し過ぎ、大仰であるとの理由から、演奏を拒否されたものなのだ。私は、フェルディナントに、これらの楽譜をライプチヒに送るよう依頼した。もしそうしなかったとしたら、今や"語り草"となっているこの交響曲は、まだ長い間闇に眠ったままであっただろう...」
こうして、この交響曲は、シューマンによって「発見」され、ライプチヒの「盟友」、メンデルスゾーン(1809-47)のもとに送り届けられました。そして、この年の3月21日に、メンデルスゾーンの指揮により、ようやく「初演」となったのです。
シューマンは、さらにこう述べています。
「この交響曲には、ただの美しい歌とか、ありふれた喜怒哀楽を超えるものが秘められていて、聴く者を"ある国"に誘っていく。今までに行ったことがあるとはどうしても思えない国へ。うそだと思うなら、この曲を聴いてみるが良い。いたるところに深い意味があり、個々の音は微妙な表情を持ち、全曲を通じて、シューベルト特有の"ロマン性"が感じられる」
その上で、
「この交響曲は、ジャン・パウル(1763-1825)の長編小説に劣らず、"天国的な長さ"を持っている。これらが、決して"終わろう"としないのには、それだけの理由がちゃんとある。どちらも、その先、その先を、心ゆくままに楽しませてくれるので、どうしても、"終わることが出来ない"のである...」
と書いています。さらに、
「個々の楽章を分析したところで、僕たちにもみんなにとっても面白くはないだろう。でも、あんなに"感動的"な第2楽章については、触れておかなくては気が済まない。この楽章では、ホルンが、遠くから呼ぶ声のように聴こえて来るところがある。僕には、"この世のものではない声"のようにも思える。すべての楽器は、はたと止んで耳を澄ます。天の賓客が忍び足で通っていく音を、じっと聴いているかのように...(最初のベームの録音では、「19分40秒頃」からです)」
とも述べています。
このように、シューマン、メンデルスゾーン、そしてもちろん、この曲を「保管」していた兄フェルディナントは、まさに、この曲の「大恩人」であると言えるのです。
「長い曲」(演奏時間は、「約50~60分」)ですので、聴くには相当の「慣れ」も必要でしょう。しかし、その「メロディ」を1つずつ追っていくと、先ほどのシューマンの話の「天国的な長さ」の意味も分かるかと思います。
ですので、その「聴きどころ」を分かりやすく説明しましょう。
「第1楽章」はやはり、ゆったりとした「序奏」の後に、徐々にスピードを上げて現われる、「突進的」で「躍動的」な「第1主題」がまず1つ。その後、「減速」したところで「木管楽器」で奏されるのが、美しい「第2主題」です。この「対比」は、まさに、「ピアノソナタ第15番 ハ長調 D.840」(1825)のそれを思い出させます。その後は、これらの主題が「展開」され、「再現」され、「終結」すると思えば、案外すんなりと受け入れられるかも知れません。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12251131344.html?frm=theme(参考:「ピアノソナタ第15番」の記事)
「第2楽章」は、シューベルト「お得意」の、「自由な(変奏曲的性質を持った)ロンド」と言えるでしょう。冒頭のオーボエの旋律が美しいので、こちらもすんなりと入れるはずです。その上で、先述のシューマンの評した部分を「注意深く」聴いてみることです。
「第3楽章」は「活発なスケルツオ」で、初めて聴いても、「心が弾む」と思います。これもまた、「ピアノソナタ第17番 ニ長調 D.850」(1825)のスケルツォを思い出させます。
この「主部」を、「次から次へと」堪能しているうちに、「トリオ(中間部)」へと入りますが、「木管楽器」主体のこの部分がまさに「美しく」、一度聴いたら「忘れられない」ぐらいだと思います(上掲のベームの録音では、「32分30秒頃」からです)。
https://ameblo.jp/daniel-b/entry-12278415154.html?frm=theme(参考:「ピアノソナタ第17番」の記事。再掲)
「第4楽章」は、「大舞踏会」を思わせる曲で、現代風に言えば、「ダンス曲」と言ってしまっても良いかも知れません。高らかな「ファンファーレ」の後、その「一大舞踊曲」が奏でられます。ベートーヴェンの「交響曲第7番 イ長調 op.92」(1811-12)の「フィナーレ」をも思い出させます。
この作品、「大きなハ長調交響曲」は、シューベルトが「後期全体」をかけて作り上げた、「一大傑作」と言って良いと思います。「ザ・グレート」という「通称」は、イギリスで出版された際に付いたものですが、それが単に、「大きい方の(ハ長調)交響曲」を意味するものだったとしても、「偉大な交響曲」の意味で理解して、何ら「問題はない」と、私は思っています。
最後に、1987年に録音された、クラウディオ・アッバード(1933-2014)/ヨーロッパ室内管弦楽団の録音から、当時「話題」となった、「自筆譜」による演奏で、「通常版」との「大きな相違点」となった箇所を挙げておきましょう。
「第2楽章」の出だし、「0分50秒頃」からの音型が違っていますが、これは、「第三者」が「変更」してしまったということです。こちらが「オリジナル」です。
こちら「第3楽章」では、「2分13秒」あたりに、シューマン(?)によって削除された4小節が復活しています。
この曲には、本当に、この他にもまだまだ「名演奏」が「多い」と思います。
というわけで、今回は、「交響曲第9(8)番 ハ長調 D.944(大きなハ長調交響曲)」について書いてみました。
それではまた...。
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(daniel-b=フランス専門)




