そして、3つ目の「完成した脚本を検討するという習慣がない」は、前述の2つとも絡み合っていて、本来は、私に結論が出せるような、(出せたとしても、意味がある結論にはならないような)簡単な問題ではないのですが、考察中の「とりあえずの結論」として、書きたいと思います。
まず、「脚本は、それだけで完結した完成作品である」という大前提と、「しかし、作品を作る上では部品の1つでしかない」という、矛盾した現実があります。
脚本家が書き上げた脚本は変更するべきではないのだけれど、諸々の事情で変更せざるを得ない場合があるわけです。脚本に書かれていることが会場・時間等の都合で実現できないとか、演出家が脚本に納得できないとか、事情はいろいろだと思いますが、ともかく脚本家にとってはつらいことですし、時には脚本家と演出家の信頼関係にヒビが入ってしまうこともあるでしょう。
演出家と脚本家が、密に連携しながら脚本を作れる体制でないなら、脚本を書いた者が演出して、その場の判断で書き直すのが良いだろうと思います。
ところが、そうなると脚本・演出家は、公演の準備をしながら脚本の書き直しをすることになるので、とてつもなく忙しくなります。正直に言って、脚本をじっくり書き直すヒマはありません。
さらに準備が進み、道具や照明が決まり始め、役者がセリフを覚え始めると、脚本を書き直すのは、多くの人間に負担をかける非人道的な行為になってしまいます。
「完成した脚本を検討するという習慣がない」と言うよりも、「完成した脚本を検討する余裕がない」と言うのが実際のところだと思います。公演の現実と戦いながら、脚本は書かれて行くのでしょう。
現実の前に、いつも理想は無力なものですが、それでも一度、理想的なスケジュールを作ってみましょう。
①脚本・演出家が、脚本の第1稿を仕上げる。
②第1稿の内容に合わせて役者を集める。
基礎練習、読み合わせや台本を持っての立稽古を行う。
③役者の能力の見極め、意見を聴き取る。
読み合わせ・立稽古の結果も踏まえて、大幅な構成の変更も含めた第2稿を仕上げる。
④必ず、第2稿の仕上がり後に、会場の予約、スタッフの手配を行う。
⑤第2稿に合わせて、本格的な立稽古、音響・照明の計画づくり、道具の準備を始める。
⑥立稽古の結果を踏まえて、セリフなどの小さな変更を加えた第3稿を仕上げる。
⑦ひたすら練習
⑧公演当日を迎える。
会場にもよりますが、ホールの予約は1年~半年前に開始されることが多いので、第2稿の仕上がり後に予約したとすると、脚本執筆から始めて公演まで1年半から2年程度の時間がかかることになります。
ちょっと長すぎる気もしますが、「完成した脚本を検討するという習慣づくり」から始めるとしたら、このくらいの時間が必要なのかなと思います。
脚本を検討するという作業は、そのくらい時間がかかる、重要な作業だと考えるからです。
さて、ここまで、さらりと書いてきましたが、「書き直す」とか「構成を変更する」とは、具体的にどういう作業で、どのように重要なのでしょうか。
誰でも知っている「桃太郎」の場合で、考えてみたいと思います。
(つづく)