笛を吹く老人の話 | おだんご日和

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Dango茶屋・いちのせの徒然記

一生懸命、笛を吹いている老人がいます。
きっと昔は、彼が笛を吹けばみんなが踊り出したのでしょう。
でも今は、彼がどんなに笛を吹いても、みんな、お愛想で手拍子する程度です。





老人は、ますます大きく笛を吹きます。手拍子は大きくなります。
とても盛り上がっているように見えます。
でも誰も踊りません。





老人は、だんだんイライラしてきたようで、表情も笛の音も、だんだん険しくなって行きます。
遠巻きに手拍子するだけの聴衆を挑発するように、老人は視線を送り、笛の音は最高潮です。
でも誰も踊りません。





なぜなら、みんなぐったりと疲れ果てていて、その上お腹が空いていたからです。
そして、老人が笛を吹けるのは、その前にたらふく食べているからだとみんな薄々気付いていたのです。
老人が笛を吹けば吹くほど、みんなの眠りは邪魔され、

笛の音が空きっ腹に響き、明日の不安を煽ります。





でも老人に悪気があるわけではないのです。
踊れば楽しいじゃないか、なぜみんな踊らないのかと老人は不思議でなりません。
みんなを元気づけるつもりが、すっかり逆効果になってしまっています。





老人がしなければいけないのは、笛を吹くことではなく、みんなを一晩ゆっくり休ませて、

一人ひとりに声をかけて、あちらに行けば食べ物があると指差し、

その理由を述べて、みんなを元気づけて、一歩いっぽ歩き出すことなのですが、
老人はきっと、今まで笛を吹いたことしかなかったのでしょう。





そんな可哀想な老人を今、私が見ています。
助けてあげたいのだけれど、老人に近づいても話しかけても「踊れ踊れ」と笛を吹くだけで

私の話を聞こうとしません。
そんな可哀想な老人を今、私が見ている夢を見ているのです。