低線量被曝を防ぐための具体策を、低線量でもリスクがないと言い切れない――福島大学の教員らが国、県に提言(1)
http://www.toyokeizai.net/business/society/detail/AC/eba3b0cef13b72b85db7a856131c915f/page/1/
5月9日にようやく入学式を迎えた国立大学法人・福島大学。だが、東京電力福島第一原子力発電所事故で、キャンパス内では通常より高い放射線量が相変わらず続いている。
そのような中、福島大学の教員らが「福島大学および県は、低線量被曝リスクについて慎重な立場を」とする提言を発表、「実際に被曝している当事者として、この身に降りかかる(放射線の)リスクについてできるだけ冷静に論じたい」とし、国・県などの放射線に対する安全体制に疑問を投げ掛けている。
提言を発表したのは、福島大学共生システム理工学類の石田葉月准教授を中心とする福島大学原発災害支援フォーラム(FGF)。石田氏の文責で書かれた提言は、「県は放射線の危険性に対し立場の違う立場の専門家をアドバイザーとして招聘すべき」「県および福島大学は、低線量被曝のリスクが必ずしもゼロであると断言できないことを認識、低線量被曝を防ぐための具体策(マスクや線量計の配布など)を講じるべき」とする内容が柱となっている。
石田氏はこのような内容を佐藤雄平福島県知事にも送付、佐藤知事からの回答を待っている状態だ。
■FGFの提言全文はこちら
現在、福島県は「現状の放射線量では安全だ」といった趣旨の発言を行う専門家を「放射線健康リスク管理アドバイザー」として招聘している。
これに対し、石田氏は「福島県民の多くが放射線の専門家ではない。現在の状況でどれだけ被曝しているのか、その被曝によるリスクがわからない状態だ。放射線のリスクについては複数の見方があるにもかかわらず、安全とする意見だけしか県からは聞こえてこない」と指摘。
「リスクを考え、最終的にどういう行動を取るかを判断するのは県民一人一人。いわば素人が判断できるように、どういう見解があり、どういう内容なのかを判断できるような材料を提供すべき」と言う。
提言では、放射線に関するリスクについて、(1)ある量以下の被曝はまったく無害とする立場、(2)被曝量が下がればリスクは減るものの、どんな低線量でもリスクはゼロではないとする立場、(3)低線量だからと言って、必ずしもリスクは小さくならないとする立場の3つに分類。
福島県のように、事実上(1)の立場のみを強調する態度は科学的ではない、と提言で指摘している。
また、3つの立場のうち、(1)が多数の意見ではなく、まずは予防するという立場から考えればリスクはゼロではないとの立場を取るべきではないかと主張する。
提言を行った石田氏は、「この提言は県民一人一人に向けたものでもあり、今の状況についてどうすべきか、悩むことが大事だということを伝えたい」と打ち明ける。
3つの立場と向き合うということは、確率論では片付けられない「真の不確実性」と向き合うということであり、そのストレスから逃れようと人間はしがち。
そうなると、「原発がもたらすコストについて安易に考え、従来のように原発を安易に受け入れてしまうことになりかねない。現状をよく考えるきっかけになればよい」(石田氏)。
特に、放射線がもたらすリスクについては、福島第一原発周辺に関心が集中しているが、福島市や郡山市でも通常よりかなり高い放射線量が記録されている。
「避難地域でもなく、深刻な状態であるのは両市ともに変わりがない。低線量被曝のリスクがないとは断定できないのに、モルモット状態になっているのが実情」と石田氏は言う。
県民の安全を優先して考えられるような態勢は、今の福島県からはまだ見えていないのが実情だ。
(福田 恵介 =東洋経済オンライン)
■福島中通りでも高い放射線量
出所:文部科学省