「葉山君だっけ?彼はバイオリンを演奏していたんだって?」
院長室を出て昴流さんと並んで歩く。
少し前に・・・
1人で歩く城井さんの姿があった。
「はい、音大に進むことになってました。井上佐智さんとも親交があったので、それなりの才能はあったと思います。」
「そっか・・・。
翔君はね・・・
ピアノを演奏してるんだよ。」
昴流さんがそう言った時、ピアノの音色が聞こえた。
「叔父は毎週患者さんの為にセラピーを開いていてね。翔君も月2回、ここで演奏してるんだ。」
とても優しい音色。
廊下の先は1階ホールから吹き抜けになっている。
「翔君にピアノを与えたのは悟なんだ。」
昴流さんが足を止めた場所から見えたのは・・・
「葉山・・・。」
ピアノを演奏する葉山の姿だった。
あれは・・・
葉山だ。
小さく体を揺らしてピアノを弾く姿。
須田先生からバイオリンを借りるまでの数週間。
音楽室でピアノを弾いていた時の葉山と同じだった。