「音?」
「そう・・・。
人には必ず音を出すときに癖がある。
それは普通の人にはわからないかもしれないけど・・・
僕や雅彦さんは・・・
その演奏者が音色でわかる。」
何を言ってるんだ?
「この音は託生君の作り出す音だよ、義一くん。」
佐智は俺を見て大きくうなずいた。
「でも・・・皆上って言う名前なんだろ?託生だとしたらなんでそんな偽名を使う必要がある?」
「それは・・・わからない。でも・・・。」
「皆上翔の経歴、調べたんだろ?託生との接点でもあったのか?」
佐智はかばんから封筒を出すとテーブルの上に広げた。
「彼がこの業界に現れたのは2年前。初めて出場したコンクールで優勝した。半年前まではアメリカで活動していたが、所属事務所の社長でスポンサーでもある城井悟が日本に戻るのを機に日本での活動を始めたらしいんだ。」
城井悟・・・。
最近著しく業績を伸ばしている会社、ASPの若き社長。
音楽業界を中心に著しい発展を遂げている会社だったと記憶していた。
「年齢、学歴・・・
ほとんどの経歴が明かされていない。
ここ2年の活動記録のみ・・・。」
そう言って佐智がテーブルの置いたチラシ。
その姿に俺はチラシを手にした。