「あ、いた。何処行ってたんだよ利久。」
そこにいたのは・・・
矢倉。
「どこって・・・託生の所だよ。」
そう答えると
「託生に会えるのか?だったら俺も連れて行け。」
矢倉は少し脅すようにそう言った。
「無理だよ。今はたくさん人来てたから。明日には戻ってくるって行ってたからそれからにしたら?」
きっと人間の世界の事を知りたいんだろう、そう思って答えた利久に
「ばか。そんな場合じゃないんだよ。」
矢倉は大声でそう言った。
「え?」
「明日までに・・・
明日までに運命の相手とキスしないと・・・」
キスなんて出来るような感じじゃなかったけど・・・
「託生は海の泡になって消えちまうんだよ。」
消える?
「野沢の奴、肝心な注意書きを見てなかったって今連絡してきたんだよ。
3日目までにキスできない場合・・・海の泡となって消えますので、よほどの覚悟がない限り飲まないで下さい。
そう書いてたけどどうしようって。」
「そ・・・そんな・・・。」
消える?
託生がいなくなる?
「だって・・・託生はキスできなかったら人魚の国に戻れるからって・・・。
さっきそう言って・・・。」
「それは託生が注意書き知らないからだ。
早く・・・
早く託生に教えないと。」
焦る矢倉に
「キス以外にないの?託生が消えない方法はないの?」
利久はそう聞いた。
「運命の相手の心臓を貫いてその血をあびれば・・・
人魚として暮らせる。」
矢倉は躊躇いながらそう言った。
「そんな・・・。」
「運命の相手の事なんてしらねーよ。託生を助けなきゃならないんだ。キスできないなら、そいつの血を託生にあびてもらうしかないだろ?」
どうしよう。
託生は王子のことが・・・
でも王子は違うって・・・
日が沈みかけた海で・・・利久はどうしたらいいかわからずにお城を見上げていた。