『 山 の 女 王 』



前回までのお話し  「山の女王 1」  「山の女王 2」  「山の女王 3」
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 管理人はこのクジャク石のことを、

領主の大旦那にも知らせました。

それを聞いた領主の大旦那は、わざわざペテルブルグから

この石を見にやってきました。

事の次第を聞いた大旦那は、スチュパーンを呼び出し、



『お前、いいかね?

 わしはお前に貴族の名誉をかけて約束してやろう。

 もしお前が、直径10メートル以上の柱を切り取れるほどの、

 大きなクジャク石を掘り出したら、自由にしてやろう。』



と、言いました。

しかしスチュパーンは、



『俺はすでに一度、管理人の奴に騙されている。

 もう誤魔化されやしないさ!

 まず、俺を自由にすると言う証文を書け!

 そうしたら、掘ってみようじゃないか。

 まあ、掘り出せるかどうかは、運次第だがな。』



と、言い放ちました。



 領主は、苦虫を噛んだような顔をしながら地団太を踏み、

大声で、何やらわめき散らしました。

しかし、スチュパーンは一歩も譲りません。

それどころか、



『ああ、そうだ。

 忘れるところだった。

 俺が自由の身になったって、

 許嫁(いいなずけ)が農奴じゃ、駄目だ。

 俺の許嫁も、自由の身にすると一緒に証文に書け!』



と、大声で言いました。



 これを聞いて、領主は、

スチュパーンは腰抜けでは無いと悟りました。

そして渋々、証文を書いたのです。



『そら、受け取れ。

 ただし、良いか、しっかり掘り当てろよ!』



しかしそう言われても、スチュパーンは、



『ふん、こればかりは運次第さ!』



と、相変わらず言い放つのです。



 そうは言ったものの、スチュパーンは、

大きなクジャク石を見つけ出すことに、成功したのです。

何といっても、山の中を女王様に案内されて、

隅々まで良く知っているのですから、

見付け出すことなどは、簡単だったのです。

そしてこの大きなクジャク石から、

直径10メートル、

高さは、教会の床から天井までの長さを切り出すと、

領主はペテルブルグの一番大きな教会に飾る為に、

その柱を送り届けさせました。



 その時から、スチュパーンは自由の身になったのです。

そしてその後、グミョーシキ銅山の鉱石は底をついたのか、

全く、良い石はとれなくなったのです。

瑠璃だけは、まだ少しはとれるのですが、

それ以外は、鉛鉱か、クズ石ばかり。

金属の塊などは、全く出ることがありませんでした。

そして、クジャク石も取れなくなってしまいました。

やがて鉱山の採掘場には、水が沁み出し、

中の坑道という坑道は、水浸しになってしまったのです。

これを見た村人たちは、



(大きなクジャク石を、

 山の女王様の許しを得ずに、採掘しちまった上に、

 教会なんかに柱を立てたから、

 女王様が、お怒りになられたんだ!)



と言って、鉱山に入ることを、嫌がるようになったのです。



 その後、自由のみになったスチュパーンは、

残念ながら、幸福にはなれませんでした。



 やはり自由になった許嫁のナースチャと結婚し、

家庭を持ち、家を建て、暮しは落ち着いていたし、

楽しく暮らせるはずなのに、

何故か、スチュパーンの顔は、暗く曇って行ったのです。

更に悪い事に、身体も弱って行くばかりでした。

見る見るうちに、やつれ果ててしまったのです。



 痩せこけたスチュパーンは、散弾銃を手に入れ、

いつからか山へ狩りに行くようになりました。

行き先はいつも、クラスノゴールカ鉱山です。

しかし一度も、狩った獲物を持ち帰ることはありません。



 ある秋の日に、スチュパーンは、家を出て行ったきり、

戻って来ませんでした。

待っても待っても、帰ってこない・・・

どこへ行ってしまったのか?

彼の妻だけでは無く、村の衆たちも直ぐに集まって、

山へ探しに出かけました。

やがて村の衆は、スチュパーンを見つけました。

が、残念なことに、すでにスチュパーンは、

高い岩の上で、死んでいたのです。

死んだスチュパーンの顔は、ニッコリと笑っていました。



 持っていた銃は、近くに落ちていて、

撃った様子は全くありません。

最初に駈けつけた村人の話には、

スチュパーンの傍には、緑色のトカゲが居たとのことです。

それもこの辺りでは、見たことが無い様な、

大きなトカゲだというのです。

まるで、スチュパーンの傍に寄り添うような格好で、

顔をもたげていて、大粒の涙をこぼしていたと

村人は言っていました。

そしてその後、みんなが駆け付けた時には、

トカゲは岩の上から飛び降りて、

姿を消してしまったのです。

村人たちは、スチュパーンの遺体を村へ運び、

綺麗に洗ってやることにしました。

すると片方の手が、固く握りしめられていて、

その中に、緑色の石の玉がキラリと輝いたのが見えました。

何粒も握られていたようなのです。

そこに居合わせた、石に詳しい人が、



『ああ、こりゃ、エメラルドじゃ。

 滅多に出ない高価な石じゃ。

 ナースチャ、お前さんに大変な財産が残されたよ。

 しかし一体どこから、こんな石を手に入れたのだろう?』



 ナースチャは、スチュパーンから、こんな石の事を、

一度も聞いたことが無い、

まだ結婚する前に、大きなクジャク石の箱を貰った事があり、

その中には、高価な石が沢山入っていたけれども、

その中にも、この石は無かったわと、言いました。



 皆がスチュパーンの手の中から、

エメラルドを取り出そうとすると、

持っていた緑色の石は、全て粉々に割れてしまいました。

だから、どこからスチュパーンが、

あのエメラルドの玉を手に入れたのかは、

とうとう誰にもわかりませんでした。

その後、クラスノゴールカ鉱山を掘りに掘ってみたのですが、

銅の光をした茶褐色の鉱石しか、出て来ません。

ずっとずっと後になって、ある者が、

スチュパーンのエメラルドは、

きっと山の女王様の涙だと、気がつきました。

結婚する前に、女王様からもらったエメラルドを、

誰にも売らなかったのです。

家族にも、その石だけは見せず、

そっと大事にしまっておいて、

それを握りしめながら、死んでいったのです。



 山の女王様とは、どういう人なのでしょう。



 悪い者が女王様に出遭えば、

その者には、不幸が訪れます。

しかし良い者がで合ったとしても、

けっしてその者が、幸福になれるわけでは無いのです。



「山の女王」 おしまい。




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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