『 山 の 女 王 』




 昔々のお話しです。

ある時、とある村の男が2人、

草刈り場の、牧草の伸び具合を見に出かけました。

その草刈り場は、村から遠く離れた場所にあり、

セーヴエルシカ川を渡った、そのまた先にあったのです。



 その日は、休みの日でしたが、

雨上がりで、とても暑い日でした。

この2人は、グミョーシキ銅山で働いている炭鉱夫でした

銅山で、銅やクジャク石を掘っていたのです。

その銅山には、他にも瑠璃(るり)や、

小さいながらも、色んな金属の塊も掘り当てることができました。



 2人の内の1人は、若い男で、まだ独身でした。

しかし、クジャク石の粉にやられて、

目が緑色に変色しかかっていました。

もう1人の男は、年寄りで、

この男は、身体が弱って来ている上に、

目は、もうすっかりと緑色、

更に、頬まで緑色の絵の具を塗った様に変色していました。

それに肺の中まで、クジャク石の毒に犯されているのでしょう。

始終、咳き込んでおりました。



 この日は、とくに蒸し暑い日だったので、

森の中の木陰は涼しく、とても気持ちが良かったのです。

小鳥たちは歌い、夏の日を楽しんでおりました。

お日様の下では、地面から陽炎がユラユラと上がっています。

2人は、この暑さにすっかり参ってしまいました。

草刈り場への道は、まだまだ遠かったのですが、

その途中の、クラスノゴールカ鉱山に辿り着くのがやっとです。

この鉱山では、その頃、鉄鉱石を掘っておりました。



 2人は、涼しい森で少し休もうと横になりました。

ナナカマドの木の下の草地に寝転びました。

横になると2人は、すぐに寝息を立て始めたのです。



 しばらくすると、若い男は、

不意に誰かに、わき腹を突っつかれたように思い、

目を覚ましました。

見ると、目の前の大きな鉱石の塊りの上に、

知らない女性が座っておりました。

2人の男の方には、背中を向けていましたが、

髪をおさげにしている所から見ると、若い娘の様でした。

おさげの髪は青黒く、おさげの先のリボンは、

赤にも緑にも見え、何とも不思議な色でした。

それにそのリボンは、銅箔(どうはく)の様に

鈍く光り、ぶつかるとカチャカチャと音を立てていました。



 若者は不思議なおさげに目を見張り、

娘の様子をじっと伺いました。

娘は、小柄で綺麗な娘でしたが、

その場にジッとしている事が無く、

足元で、何かを探しているのか、屈みこんでみたり、

そうかと思えば、突然、後ろを見てみたり、

今度は、左の方へ身体を曲げたかと思ったら、

急に立ちあがって、両手を振ると、また屈みこむ。

娘は、とにかく忙しく動き回っておりました。



 すると娘は、突然、独り言を言い始めました。

しかしそれがどこの国の言葉なのか、全く解らないのです。

誰と喋っているのかすら、解かりません。

そしていつも笑顔なのです。

笑っているのです。

きっと何か、楽しい事があるのでしょう。



 若者が、娘に話しかけようとした、その時です。

その時、若者は、ハッと思い当たることがありました。



(なんてことだ。この女は「山の女王」じゃないか!

 あの着ているドレスといい、間違いない!

 どうして俺は直ぐに、気づかなかったんだ!

 綺麗なおさげ髪のせいで、俺の目は眩んじまったか?)



 確かに、娘のドレスは、この世のものではありません。

見た目は絹のように滑らかなのですが、

それはクジャク石から作られていたのです。

クジャク石とは、キラキラとした美しい石なのです。

ドレスは、そのクジャク石で作られた、石のドレスなのに、

それでも絹の様に滑らかで、

女王が動くと、絹で出来た布の様に動くのです。



(これは、どうにかしないと! まずいぞ!

 女王に見付る前に、早くここから逃げださないと!)



 若者は、心の中で叫びました。

この若者は、一緒に居た年寄りや、村の他の年寄りたちから、

クジャク石のドレスの娘は、人間の男をからかい、

男の気を惑わすと、何度も聞いたことがあるのです。



 だから早く逃げ出さなくては! と思った、その時です。



 クジャク石のドレスを着た娘が、若者の方を振り返り、

クスクスと笑い出したのです。



~今日は、ここまで~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

つづくですっ。
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