『 忠 実 な 友 』



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緑色の紅スズメは、ハンスと粉屋の話しを続けました。



 医者は馬と、大きな深い靴とカンテラの用意を

 家の者に命じると、階下へ降りて、

 粉屋の家の方角へと馬を走らせ、

 その後ろから、ハンスはとぼとぼと歩いて付いて行きました。



 ところが、嵐は激しくなるばかりで、

 どんどんと土砂降りになり、

 小さなハンスは自分の歩いている所が見えず、

 医者の乗った馬に付いて行く事も出来なくなってしまいました。

 そしてとうとう道に迷って荒れ地へ彷徨い出て、

 そこは深い穴だらけで、とても危険な場所だったのです。

 可愛そうに小さなハンスは、そこに落ち

 穴に溜まった水の中で、溺れて死んでしまったのです。

 翌日、ハンスの死体が大きな水溜りに浮かんでいる所を、

 数人の山羊飼いが見つけ、小屋へ運んで行きました。



 小さなハンスは、とても優しく人気がありました。

 誰も彼もが、ハンスの葬式に出たのです。

 しかし驚くことに、喪主は粉屋だったのです。



「『わしは、故人の一番の親友だったのだから、

 上席を占めるは、いわば当然の話ってもんさ。』」



 そこで粉屋は長い黒い外套を着て、行列の先頭に立ち、

 時々大きなハンカチで目をぬぐいました。



「『小さなハンスが亡くなったのは、

 全く、誰にとっても大きな損失だ。』」



 と、葬式も終わり、一同が宿谷で寛ぎながら、

 香料入りの葡萄酒や甘い菓子を飲み食いしていた時、

 鍛冶屋が言いました。



「『とにかくわしには大損害だ。』」



 と、今度は粉屋も言いました。



「『何しろあの男に、手押し車をやったも同然なんだが、

 今となると、それをどう始末したら良いのか、

 まるで見当もつかん。

 うちじゃ、酷く邪魔になるし、

 手入れが行き届いてないもんだから、

 売っても代金は一文ももらえまい。

 二度と誰かに物はやらないよう、気をつけよう。

 気前が良いのも困りものさね、いつだってな。』」





『それで?』



長いあいだ黙っていた、川ネズミが聞きました。



『あのね、これでこのお話しはおしまいなのよ。』



と、緑色をした紅スズメが答えました。



『でも粉屋はどうなったんだい?』



『あら!実は、あたしもその後は知らないの。

 それにそんなこと、どうだって良いのよ。』



『それじゃぁ、おまえさんの性質には、

 同情心ってものがないのは、明らかになったな。』



と、川ネズミが言うと、紅スズメは、



『どうやらあんたには、

 この物語の教訓がわからないらしいわね。』



と、言ったのです。



『物語の、なんだって??』



『教訓ですよ。』



『その物語には、教訓があるとでも言うつもりかね?』



『そうですとも。』



『ち! なるほど、そうかい!』



と、川ネズミは、ぷりぷりした様子で言いました。



『お前さんは、話を始める前に、

 この話しには教訓があると、語るべきだったんだ。

 そうしたら、わしは、「ふん!」って言っていただろうよ。

 批評家さんのようにな。

 ただ、今ならそう言えるよ。』



そうして川ネズミは



『フン!』



と怒鳴ると、尻尾をパタパタさせ

怒りながら、穴の中へと戻って行ったのでした。



それからしばらくすると、水をパシャパシャさせながら



『川ネズミさんは、お話しがお気に召しまして?』



アヒルがやって来て、紅スズメにそう聞きました。




『あの方にも、良い所がずいぶんおありだけれども、

 でも私としては、

 母親の気持ちというものがありましてね。

 頑固な独身者をも見ると、

 目に涙を催さずにはいられませんの。』



『どうやら私のお話しで、

 あの人をイライラさせてしまったようですわ。』



と、紅スズメは答えました。



『本当の所、教訓談をしてあげましたのよ。』



『ああ!そんな事をすると、

 いつだって、とても危険なことになってしまいますわ。』



と、アヒルは言いました。



 そして私も、まったくそれに同感なのです。



『忠実な友』 おしまい。




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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