『 忠 実 な 友 』
ある朝、年を取った川ネズミが、穴から頭を出しました。
キラキラとした美しい数珠玉のような澄んだ目をし、
強張った灰色のひげを生やし、
尻尾は黒くて長いゴム紐のようです。
近くの池では、幼いアヒルたちが、
黄色いカナリアの群れそっくりに
泳ぎ回って遊んでおりましたが、
真っ赤な足をした、美しい純白の母親が、
水の中で逆立ちになる方法を、子供たちに教えようと、
必死になっておりました。
『逆立ちが出来なければ、
最高の社交界へ、入れませんよ。』
と、母親アヒルは、子供たちに言い続けました。
そして時々、その方法をやってみせるのでした。
ところが幼いアヒルたちは、母親の言うことに、
ちっとも耳をかそうとはしません。
皆、まだほんの子供だったので、
社交界に入るという事が、どんな利益になるのか、
まったく知らなかったのです。
『ちっ。 全く、なんて聞き分けのない子供らなんだ!』
と、年取った川ネズミが叫びました。
『あんなやつらは、いっそ溺れちまった方がましだ!!』
『まあ、何という事を言うのですか。
そんなことが、あるものですか。
誰だって、まず手解きからやらなくてはいけないのだし、
親というものは、いくら辛抱強くしても、
辛抱をし過ぎるという事はありませんからね。』
『ふん! わしは親の気持ちなど、何もわからんよ。
わしには家族が無い。
実を言うと、結婚したことは無いし、
又、結婚をしたいとも思わん。
愛はそれなりに、誠に結構なものではあるが、
友情の方がずっと高級だ!
実際、忠実な友情というものよりも貴い、
あるいは珍重すべきものがあるとは思えん!!』
『では一体、あんたは
忠実な友人の義務とは、どう云うものだと考えているの?』
と、突如、緑色をした紅スズメが聞きましたが、
この鳥は、すぐそばの柳の木にとまっていて、
さっきの会話をふと小耳にはさんだのです。
『そうです、私もそれが知りたいのです。』
と、アヒルの母親は言うと、池の端まで泳いで行って、
子供たちに立派な手本を示すために、
逆立ちをして見せました。
『なんて馬鹿げた質問だ!!』
川ネズミは叫びました。
『もちろん、私の忠実な友は、
とうぜん、私に忠実であって欲しいものだ。』
『で、そのお返しは、どうするつもりなのかしら?』
今度は、別の小鳥が尋ねました。
銀色の小枝の上で、身体をゆすり、
小さく可愛らしい翼をパタパタさせながらです。
『お前の言っている事は、意味が解らん。』
と、川ネズミは答えました。
『ではその問題について、ひとつお話しをしてあげましょう。』
と、紅スズメが言いました。
~今日は、ここまで~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
つづくですっ。