『 忠 実 な 友 』
前回までのお話し 「忠実な友 1」 「忠実な友 2」 「忠実な友 3」 「忠実な友 4」
緑色の紅スズメは、ハンスと粉屋の話しを続けます。
「『冬場はどうだったね?』」粉屋は聞きました。
「『いや、まったく。
ご親切によう聞いてくださった。
ありがとうよ。
どうも少々辛い目にあいましてね、
しかしもう春になりましたから、
私はすっかり幸せですし、花もみんな元気ですよ。』」
「『冬の間、女房とよく、君の噂をしたんだよ。
ハンスは、どうしているかなあと思ってね。』」
「『それはご親切に。
私の事なんか、忘れておしまいになったんじゃないかと、
いくらか心配しておりましたよ。』」
「『ハンス、君には驚くよ。
友情ってものは、決して忘れるものじゃないさ。
それが友情の素晴しい所なんだが
どうやら君には、人生の詩がわからんらしいな。
それはそうと君の所の桜草、なんて美しいのだろう。』」
「『それはもう本当に綺麗ですとも。
こんなにドッサリあるのは、実に有り難い事です。
市場へ持って行って、市長のお嬢さんに売ってね、
そのお金で手押し車を買い戻すつもりなんですよ。』」
「『手押し車を買い戻すんだって?
売っちまったという事かい?
なんて間抜けな事をしたんだ!』」
「『それが実は、売らざるをえなくなりましてね。
何しろ、私にとって冬はとてもまずい時季で、
パンを買う金さえ全然なかったのですよ。
それでまず晴れ着の上着から、銀のボタンを取って売り、
それから銀の鎖を売り、
それから大きなパイプを売り、
とうとう手押し車まで売ってしまったのです。
でももう、みんな買い戻すつもりですから。』」
「『ハンス、わしの手押し車をあげるよ。
あまり手入れが行き届いていないがね。
それどころか、片側の車輪は取れてるし、
車の矢もどこか壊れてる。
だがそれでもあげるよ。
我ながら、とても気前が良い訳で、
あれを手放すとは大ばか者だ!
と思う連中も多かろうが、
わしは世間の人間とは違うんだ。
気前のいいことが友情の精髄だと思うんだよ。
それに、自分用に新しい手押し車を手に入れてある。
だから安心しなよ。
わしの古い手押し車をあげるから。』」
「『そりゃ、どうもどうも。ほんとに気前の良いお話しで。』」
と、小男のハンスは言ったのですが、
おどけた丸い顔は満面の喜びに輝いたのです。
「『それに、壊れていたって訳なく直せますよ。
うちに木の板が一枚ありますからね。』」
「『え?木の板だって?』」
粉屋は、いいました。
~今日は、ここまで。~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。