『 忠 実 な 友 』



前回までのお話し  「忠実な友 1」  「忠実な友 2」  「忠実な友 3」
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緑色をした紅スズメは、ハンスと粉屋の話を続けました。



「『着物を着たら、すぐ製粉所へ出かけて行って、

 わしの代わりに、納屋の屋根の修繕をしておくれ。』」



 可愛そうに小さなハンスは、

 もう2日も花に水をやっていなかったので、

 庭へ行って仕事がしたくてならなかったのです。

 しかし、粉屋は自分にとって無二の親友だったので、

 その頼みごとを断りたくも無かったのです。



「『もし忙しいと言ったら、

 私の事を友だち甲斐のない奴だと考えなさる?』」



 おずおずした内気な声で、ハンスは聞きました。



「『いやなに、手押し車をあげるんだから、

 君に頼んでも大したことじゃあるまいと思うんだが、

 しかし、勿論、君が断るなら、

 わしが自分でやるよ。』」



「『いえ、とんでもない!!』」



 小さなハンスは叫ぶと、ベッドから飛び起き、

 着物を着て、粉屋の納屋へと出かけて行きました。



 ハンスは日暮れまで、一日中納屋で働きました。

 日暮れになると、粉屋が仕事の捗り具合を見に来ました。



「『どうだい、もう屋根の穴は直ったかい?』」



「『ええ、すっかり直りましたよ。』」



 ハンスはそう答えると、梯子を降りました。



「『ああ!

 他人の為に、仕事をあげることほど、

 楽しい仕事は無いもんだな。』」



 と、粉屋は言いました。



「『そう仰っていただくのは、まったく大きな特権です。』」



 と、小さなハンスは答え、腰を下ろして額を拭きながら、



「『実に大きな特権です。

 でも私には、あなたの様に美しい考えは、

 持てそうにありませんよ。』」



「『なあに!

 君にだって、思いつくさ。

 しかし君はもっと、骨を折らなくてはいかんよ。

 今の所、君はただ友情の実践を身につけているだけだ。

 いつかその内、友情の理論もモノにするだろうよ。』」



「『ほんとうに、そうなるとお考えですか?』」



「『信じて疑わんね。

 だが屋根を直したんだから、

 家へ帰って休むが良い。

 明日は、わしの山羊を山へ追ってもらいたいからな。』」



 可愛そうに、小さなハンスは、

 これに何か口答えするだけの勇気がありませんでした。

 それであくる朝、粉屋が羊を小山で連れて来ると、

 ハンスは羊を追って、山へ出かけたのです。

 山への往復にまる1日かかりました。

 家に戻ると、へとへとになっていたので、

 椅子に腰かけたまま眠りこんでしまい、

 翌日の真昼間になるまで、目が覚めませんでした。



 目を覚ましたハンスは、



「『さあ、これから庭で楽しくやれるぞ!』」



 と叫ぶと、仕事に直ぐに取りかかりました。

 ところが、どうしたわけか、

 少しも花の世話が出来ないのです。

 と、いうのは絶えず、友人の粉屋がやって来て、

 遠くまで使いに行かせられたり、

 製粉場で手伝いをさせられたりしたからなのです。

 小さなハンスも時には、

 自分が、自分の庭の花たちのことを、

 見捨ててしまったと、忘れ去ってしまったと、

 花たちに、勘違いされてはいないか?

 と、心配になり困り果てることもあったのですが、

 しかし、粉屋は一番の親友なのだと思い直して、

 悩んだ心を慰めたのです。



「『それに』」



 と、ハンスは口癖のように言うのです。



「『それに、手押し車をくれるというのだし、

 それは全く気前の良い振る舞いなのだからさ。』」



~今日は、これにて~




ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。

おしまいっ。
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