『 忠 実 な 友 』
前回までのお話し 「忠実な友 1」 「忠実な友 2」
「忠実な友 3」 「忠実な友 4」 「忠実な友 5」
緑色の紅スズメは、ハンスと粉屋の話を続けました。
「『え?木の板だって?
いいや、それこそわしの納屋の屋根に欲しいものだ!
とても大きな穴が開いていてね、
そいつをふさがないと、
穀類がすっかり湿っちまうんだよ。
板の事を口にしたとは、お前さん、運が良いぞ!
いかに一つの善行が、
常にもう一つの善行を生み出すかってことは、
全く驚くべきことさね。
わしが手押し車を君にあげた。
すると今度は、君が板をくれるってんだからな。
勿論、手押し車は板なんかよりずっと値打ちがあるぞ。
だが本当の友情は、そんなことを気に留めないものだ。
どうかすぐ出してくれたまえ。
そうすれば今日中に、仕事に取り掛かる事にするから。』」
「『ようござんすとも。』」
と、小さなハンスは叫ぶと
小屋に走って行き板を持ってきました。
「『たいして大きな板じゃないな。』」
その板を眺めながら粉屋は言ったのです。
「『わしが納屋を修繕したしまったら、
君が手押し車を修繕する分が残らんかも知れんな。
だが勿論、それは何もわしの罪では無い。
さて、君に手押し車をあげるんだから、
そのお返しに、君だって花を少しくれたくなるだろう?
この籠にたっぷり一杯、入れてくれてくれたまえ。』」
「『たっぷり一杯?』」
小さなハンスは、少し悲しげに答えました。
というのも、本当にその籠は大きな籠で、
それに花を一杯になるまで入れたら、
市場へ持って行く花は全く残らなくなってしまうと、
解ったからなのです。
しかも銀のボタンを取り戻したくて、
たまらなかったからです。
「『そうだよ、ハンス君。
手押し車をあげたんだから、
花を少し位くれと言ったって、
大したことじゃないと思うがね。
わしの考えが間違っているかもしれんが、
しかし友情、真の友情なるものはだ、
どんな我が儘にも染まらない物だと、
考えるべき筋合いのものだったんだがね。』」
「『そりゃあもう、あなた・・・
どうか遠慮なく、うちの庭の花を
沢山お持ちになってください。
いつだって、銀のボタンなんかよりも、
あなたに良く思われたくてならないのですから。』」
そう言うとハンスは、走っていって、
綺麗な桜草をすっかり摘み取ると、
粉屋の大きな籠にいっぱいに入れたのでした。
「『さよならハンス君。』」
と、粉屋は言うと、板を肩に担ぎ、
大きな籠を手に、丘を登って行ったのでした。
「『さようなら・・・』」
と、小さなハンスも言うと、
嬉しそうに、せっせと地面を掘り返し始めました。
それほど手押し車の事が、嬉しくて上機嫌だったのです。
翌日ハンスが、スイカズラをポーチに釘で止めていると、
道路から粉屋の呼び掛ける声が聞こえました。
それで梯子から飛び降りると、
その声のする方へ庭を走って行き、塀越しに眺めました。
すると小麦粉の大きな袋を背負った粉屋がいました。
「『やあ、ハンス君。
この粉袋を一つ、市場へ持って行ってくれんかね?』」
「『ああ折角ですが、今日はもう目の回るほどの忙しさでね。
つる草は止めなければならず、花には水をやらねばならず、
草原もすっかり、ならさねばならず・・・』」
~今日は、ここまで。~
ここまで読んでくださって、誠にありがとでしたぁ。
おしまいっ。