「数え年」から「満年齢」にした理由とは? | いくつ知ってる?法律トリビア【第一法規】

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こんにちは、第一法規「法律トリビア」ブログ編集担当ですカナヘイピスケ

 

私の祖父・祖母は大正生まれで、年齢を「数え年」で数えるほうが慣れているようでした。

その時代は、年齢を今のような「満年齢」ではなく、「数え年」で数えていたのですね。

ちょっと、「数え年」の年齢の数え方ってどんなふうにするのか、見ておきましょう。

私の祖母の場合、大正12年8月1日生まれでした。

そうすると、大正12年は人生で一つ目の年ということで、「1歳」となります。

生まれた時に「1歳」から始まるのですね。

そして、年が明けて大正13年になると、

人生で二つ目の年ということで、「2歳」となります。

考えてみると、その頃の人は、1月1日になると全員1つ歳をとっていたのですね。

今から考えるとちょっと不思議な感じがします。

では、その時代の人たちは、本来の自分の誕生日が来たら、

誕生日のお祝いはしていなかったのでしょうか?

1942(昭和17)年11月1日生まれの、私の母に話を聞いてみました。

すると、

「子供の頃は、11月1日になっても、特に何も思わなかったし、

何も特別なことはしなかった」

・・・!

当時はそういう感覚だったのですね。


○数え年のならわしを改める

さて、戦後間もない頃まで、この数え年で年齢を数える習慣が一般的でしたが、

1950(昭和25)年、これを現在のような満年齢で数える方式にしよう・・・ということが、

法律で定められました。

それが、「年齢のとなえ方に関する法律」という法律です。

どんなことが書いてあるのでしょうか。見てみましょう。
 

年齢のとなえ方に関する法律(昭和24年法律第96号)
 第1項
  この法律施行の日〔※注:1950(昭和25)年1月1日〕以後、国民は、年齢を数え年によつて言い表わす従来のならわしを改めて、年齢計算に関する法律(明治35年法律第50号)の規定により算定した年数(一年に達しないときは、月数)によつてこれを言い表わすのを常とするように心がけなければならない。


このように、「年齢を数え年によって言い表す従来のならわしを改めて」と定めています。

そして、満年齢を使いましょうと言っているのですが、

法律の中では「満年齢」という言葉は出てきません。

代わりに、「年齢計算に関する法律(明治35年法律第50号)の規定により算定した年数」

という言い方をしています。

ということで、もう一つ、別の法律を見る必要がありそうです。


○法律では、もともと満年齢を使うことになっていた

そこで、その「年齢計算に関する法律」を見てみると、次のように書かれています。
 

年齢計算ニ関スル法律(明治35年法律第50号)
 第1項
  年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス
 第2項
  民法・・・第143条ノ規定ハ年齢ノ計算ニ之ヲ準用ス


このように、年齢は生まれた時から数え始めると書かれています。

この法律は明治35年に公布され、これまでに改正されたことはありません。

ということは、明治時代から、法律上では、満年齢で年齢を数えることになっていたわけです。


○民法の規定にたどり着く

さて、上の条文では、民法第143条の規定を年齢の計算に使うとしているので、

 

見てみましょう。
 

民法(明治29年法律第89号)
 第143条第2項
 ・・・期間は、最後の・・・年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。
 ・・・


このように、次の年の同じ日の前日に、期間が終わるとされています。

この規定を私の母の例に当てはめてみると、11月1日に生まれた人は、

次の年の11月1日の前日に、その年齢の計算が終わるということです。

つまり、10月31日が終わった時点(24時ちょうど)で、

年齢が1つ上がるということになります。

ということで、法律上は、明治時代から、

「満○歳」と年齢を数えることになっていたものを、

戦後、徹底するための法律を作ったということのようです。


◯「満年齢」に変えると、国民の気持ちが明るくなる・・・?

それでは、なぜ「満年齢」を徹底しようとしたのでしょうか。

「年齢のとなえ方に関する法律」を審議したときの国会の会議録を見てみると、

この法律を定めようとする理由が報告されています。

それによると、

・生まれた日を正確に届け出ない人が多いので、ちゃんと届け出てもらうようにするため

・国際的に、年齢の統計は満年齢で行われている

・配給する食料のカロリーを正確に計算するため

(特に赤ちゃんの場合、まだ物が食べられないのにお菓子が配給されることもあったようです)

といった理由が報告されていますが、その中の一つに、

「満年齢にすると、年齢が若くなったような気がして、国民の気持ちが明るくなる」

というのもありました。

・・・どういうことでしょうか?

国会の会議録を見てみると、法案を提案した議員を代表して、

山本勇造参議院議員から、以下のような報告がされています。
 

〔昭和24年5月9日 参議院文部委員会の会議録より抜粋〕
・・・第一には、今の世の中は非常に暗い世の中である。税金は取られ、物はない。國民は非常に暗い氣持になつておりますが、こういうときに年齢を満で数えますと、数え年の上からいうと、年齢が若くなつたような氣がいたしまして、國民の心が何となく明るくなるような氣がすると思います。そういうことは別に予算を必要とするわけでないし、簡單にそういうことができるのであれば、こういうことは政治的にも國民に與える影響が大きいのでありますから、第一には今言うように國民の心を明るくする、こういう意味で私がこの案はよいと思うのであります。・・・


当時は終戦からまだ5年たっておらず、物資は少なく、

国民が暗い気持ちになっていたということです。

そこで、数え年から満年齢に変えようということですが、

数え年の場合、例えば12月31日に生まれた赤ちゃんは、生まれたときに1歳で、

翌日は1月1日で歳をとるので、生まれて2日目でもう2歳になってしまいます。

この差は大人になってからも同じように出てくるわけで、

そうると、数え年から満年齢に変えれば、1~2歳、年齢が若くなり、

国民の気持ちが明るくなるだろう、と考えたわけです。

当時の世の中の雰囲気を想像しながらこの会議録を読むと、なるほどなあ、と思います。


(この記事は、2018年5月31日時点の法令情報に基づいています)

 

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いかがでしたでしょうか。

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by 第一法規 法律トリビア編集担当