「法鉄」の世界 〜運転の安全の確保に関する省令 | いくつ知ってる?法律トリビア【第一法規】

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こんにちは、第一法規「法律トリビア」ブログ編集担当ですカナヘイピスケ

 

昔、中学の同級生に、「将来、近鉄の運転士になりたい!」と言っていた友人がいました。

休み時間や放課後、近鉄電車の運転を詳細に再現してくれるのですが、

その時の彼は、うっとりした表情でハンドルさばきを披露していました。

電車の運転というものは、人を惹きつけてやまない魅力があるようです。

さて、10月10日の記事「電車を運転するには免許が必要?」で、

電車の運転士さん(動力車操縦者)にも運転免許が必要であること、

その試験では、二つの法令に関する知識が問われることをご紹介しました。

そして10月13日の記事「電車の運転士さんが守らなければならないこと」では、

そのうちの一つ、「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」について見てみました。

今回は、試験に出てくるもう一つの法令である

「運転の安全の確保に関する省令」を見ていきたいと思います。
 


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◯おおもとは「鉄道営業法」第1条

まずは、条文の前に書かれている制定文を見てみましょう。

 運転の安全の確保に関する省令(昭和26年運輸省令第55号)
  〔制定文〕

   鉄道営業法・・・第1条・・・の規定に基き、運転の安全の確保に関する省令を次のように定める。


前回の「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の制定文と同じく、

この省令も、「鉄道営業法」の第1条に基づいて定められたものです。


◯常に心にとどめるべき、安全に関する決まり

さて本題に戻って、第1条にはこの省令の目的が書かれています。

 運転の安全の確保に関する省令
  第1条

   この省令は、鉄道及び軌道の運転の業務に従事する者(以下「従事員」という。)が常に服ようすべき運転の安全に関する規範を定め、その安全保持の理念を確立し、もつて輸送の使命を達成することを目的とする。


この条文の中に「服よう」という言葉が出てきますが、

これを漢字で書くと「服膺」となり、
「心にとどめて忘れないこと」という意味だそうです。

このように、
この省令は、鉄道などで運転の業務についている人が常に心にとどめるべき
安全に関する決まりを示したものであり、それによって、安全を守り、
最終的には、輸送の使命を達成することを目指しています。

それでは、具体的に、どのようなことを心にとどめようといっているのか、見ていきましょう。


◯綱領

第2条には、「服よう」すべき具体的な規範として、
「綱領」と「一般準則」の二つが示されています。

まず「綱領」から見てみましょう。

 運転の安全の確保に関する省令
 (規範)
  第2条〔抜粋〕
   従事員が服ようすべき運転の安全に関する規範は、左の通りとする。
   一 綱 領
   (一) 安全の確保は、輸送の生命である。
   (二) 規程の遵守は、安全の基礎である。
   (三) 執務の厳正は、安全の要件である。
   ・・・

このように、安全を守ることがいかに大事なことであるか、を、端的な言葉で表しています。


◯一般準則

続いて、「一般準則」が書かれています。

 運転の安全の確保に関する省令
 (規範)
  第2条〔抜粋〕
   従事員が服ようすべき運転の安全に関する規範は、左の通りとする。
   ・・・
   二 一般準則
   (一) 規程の携帯
   従事員は、常に運転取扱に関する規程を携帯しなければならない。
   (二) 規定の理解
   従事員は、運転取扱に関する規定をよく理解していなければならない。
   (三) 規定の遵守
   従事員は、運転取扱に関する規定を忠実且つ正確に守らなければならない。
   (四) 作業の確実
   従事員は、運転取扱に習熟するように努め、その取扱に疑いのあるときは、最も安全と思われる取扱をしなければならない。
   (五) 連絡の徹底
   従事員は、作業にあたり関係者との連絡を緊密にし、打合を正確にし、且つ、相互に協力しなければならない。

   (六) 確認の励行
   従事員は、作業にあたり必要な確認を励行し、おく測による作業をしてはならない。
   (七) 運転状況の熟知

   従事員は、自己の作業に関係のある列車(軌道にあつては車両)の運転時刻を知つていなければならない。

   (八) 時計の整正
   従事員は、職務上使用する時計を常に整正しておかなければならない。
   (九) 事故の防止

   従事員は、協力一致して事故の防止に努め、もつて旅客及び公衆に傷害を与えないように最善を尽さなければならない。

   (十) 事故の処置

   従事員は、事故が発生した場合、その状況を冷静に判断し、すみやかに安全適切な処置をとり、特に人命に危険の生じたときは全力を尽してその救助に努めなければならない。


この中では、「(八)時計の整正」という項目が、いかにも鉄道関係という気がします。


◯どんな状況下で書かれたのか

さて、この省令が公布されたのは、1951(昭和26)年7月2日でした。

その約2か月前の4月24日に、国鉄桜木町駅構内で、

架線工事のミスによる列車火災のために乗客106人が亡くなるという事故があり、

当時の国鉄総裁の辞任にまで至ったという出来事がありました。

この事故については、当時の国会でもたびたび取り上げられ、

議事録を読むと、国鉄が電車を導入して以来の大事故であり、

電車に乗るのが不安になっている人もいるけれども、やはりみな電車に乗らざるを得ず、

車掌さんが乗客を押し込まなければならないほど混雑している…

ということが書かれています。

そして、桜木町事故をきっかけに、

車両の構造が改善されたり、ブザーがつけられたり、パンタグラフが改善されたり

という方策が講じられました。

この省令は、そうした状況の中で策定されたもので、

この第2条「規範」の文章を見ていると、

安全確保に対する強い決意が表れているように思います。


(この記事は、2017年10月11日時点の情報に基づいています)

 


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