こんにちは、第一法規「法律トリビア」ブログ編集担当です
法律は、公布・施行された後、世の中が色々と変わって、
内容を変える必要が出てくると、改正されます。
ということは、
ある法律が公布されたときは、そのときの世の中の状況を反映して作られているから、
すぐに改正されるということはあまりないだろう…という気もします。
しかし実際は、
公布・施行された法律が、例えば他の法律が改正された影響を受けたりして、
短期間で改正されるようなことは、珍しいことではありません。
…なのですが、今回は、その中でも珍しいケースとして、
公布されたその日に改正された法律をご紹介します。
◯「公認会計士法」の改正を、さらに改正
1948(昭和23)年12月28日、「公認会計士法」の一部改正が官報に掲載されました。
この改正は、その半年ほど前に始まった公認会計士の制度について、
以前から会計検査の業務をしていた「計理士」という資格を持つ人のうち
一定の経験がある人に対しては、公認会計士になれる要件を緩和するという内容でした。
ところが、その日の官報には、上記の内容を記した、
① 「公認会計士法の一部を改正する法律」(昭和23年法律第275号)
が掲載されているすぐ次に、①をさらに改正する
② 「公認会計士法の一部を改正する法律の一部を改正する法律」(昭和23年法律第276号)
という法律が掲載されています。
これは一体どういうことでしょうか・・・?
◯何を改正したのか?
ここはやはり法律の内容を見る必要があります。
①の主な内容は、次のようなものでした。
・公認会計士制度が始まる前に、
「計理士」という資格を持って3年以上仕事をしていた人は、
3か月以内に登録をすることによって、「会計士補」になることができることとする。
・公認会計士制度が始まる前に、「計理士」の資格を持って10年以上仕事をしていた人は、
公認会計士の資格試験を受ける代わりに、会計に関する研究報告書などを提出する
という方法をとることができることとする。
・以上の法律改正は、公布の日(昭和23年12月28日)から施行する。
そして、②は、上記のうち、この法律改正を「公布の日」から施行するとしていた箇所を、
「昭和24年4月1日」から施行するというように改める内容でした。
公認会計士法の一部を改正する法律の一部を改正する法律(昭和23年法律第276号)
公認会計士法の一部を改正する法律(昭和23年法律第275号)の一部を次のように
改正する。
附則中「公布の日から」を「昭和24年4月1日から」に改める。
◯なぜこうしたのか?
なぜこうしたのでしょうか。
これらの改正のおおもとにある「公認会計士法」は、
昭和23年7月6日に公布され、その主要な部分は同年8月1日に施行されたのですが、
その法案を国会で審議する過程では、従来からあった「計理士」の資格を持っている人を
どのように扱うかが議論になりました。
その議論は「公認会計士法」の公布・施行後も行われ、
施行から4か月半後の昭和23年12月13日に、
①のように改正することが国会で可決されました。
その時点では、この改正は「公布の日から」施行すると書かれていたのですが、
9日後の12月22日、国会で「昭和24年4月1日」とする改正が行われました。
これが②の改正です。
その日の参議院大蔵委員会の議事録には、その理由が以下のように説明されています。
……これは昨日関係方面との折衝をいたしました結果、いろいろの事情があるから、この公布の日からを4月1日と改めるようにというお話がございました……。
このように、国会の場では詳細は語られなかったものの、
色々な事情があって、法律改正の施行日が改められ、
両方が同時に昭和24年12月28日の官報に掲載されました。
このようにして、法律が公布されると同時に改正されるという、
珍しいケースが誕生したわけです。
◯議論はまだ終わらなかった
これで、公認会計士の資格に関する議論は落ち着いた…と思ったら、
実はまだ続きがありました。
昭和24年4月1日施行となった①の「公認会計士法の一部を改正する法律」ですが、
実は施行の前日である3月31日に、廃止されてしまいます。
つまり、その改正がされないことになったのです。
それが規定された法律が、次にお示しするものです。
公認会計士法の一部を改正する法律(昭和24年法律第22号)
附則第2項
公認会計士法の一部を改正する法律(昭和23年法律第275号)は、廃止する。
この規定によって、
計理士として活動していた人が公認会計士の資格を得るための要件の緩和は、
実施されなくなりました。
なお、それとあわせて、
計理士の人がその業務を引き続き行える期限を延長する改正が行われました。
このような改正の経緯は、
高度な国家試験により世界的水準に達する公認会計士制度を設けよう、という考え方と、
現に計理士として活動してきた人の能力を生かそう、という考え方との
せめぎあいによるものだったようです。
公認会計士制度のもとで、計理士という資格をどうするかについては、
実はその後も色々な議論や制度改正が行われるのですが、
今回のテーマとは直接関係しないので、省略します。
「おや?」と思うような法律改正を見かけたときは、
その背景を調べてみると、色々なドラマが見つかりそうですね。
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いかがでしたでしょうか。
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是非、次回もお楽しみに
by 第一法規 法律トリビア編集担当