この国の民主主義は形だけでいい | 第一経営グループ代表 吉村浩平のブログ

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パンフレットの中でプロデューサーの河村光庸さんが「『これ、ヤバいですよ』『作ってはいけないんじゃないか』という同調圧力を感じつつの製作過程ではありましたが、映画『新聞記者』は完成しました。」と書かれています。フィクションでありながら、容易にモデルとなっている「事件」、しかも現在進行形の政権がもみ消したと言われる、記憶に新しい様々な事件を表現していることが十分に分かる映画です。

 

原案は2017年に東京新聞の記者、望月衣塑子さんが角川新書から出版された映画と同名の本「新聞記者」です。しかしこの頃から日本の政治の中枢、はっきり言えば安倍政権をかすめるように次々と起こっている「事件」と、それを無かったことのようにしようと動くマスメディアの異常を肌身に感じる人たちがいました。その一人が河村さんだったということだろうと思います。あくまでも望月さんの原案をモチーフにしながら、日本の民主主義に危機感を覚える多くの良識ある人々が、その勇気を結集して、このタイムリーな作品を創り上げたという気がします。

 

土曜日のお昼前、100席余りの座席はほぼ満席状態です。こんな状態で映画をみるのは、「ボヘミアン・ラプソディ」以来ですが、参議院選挙のさ中というタイミングでの上映に、河村さんの狙いがバッチリとハマった感じです。前から2列目一番端の席から振り返って観客の年齢層を見ると、やや中高年の方が大勢を占めているように思いましたが、予想を超える注目度の高さを感じました。

 

フィクションでありながら今現在のリアルを伝えようとする構成が面白い。原作者の望月衣塑子さん、元文科省の事務次官で加計学園の開設について「総理のご意向」を指摘した前川喜平さん、新聞労連委員長で原案の中でも菅官房長官に迫る記者会見の場で、望月さんの援護射撃をしてくれると紹介されている朝日新聞の南彰さん、そして元ニューヨーク・タイムズ東京支局長のマーティン・ファクラーさんの4名による、内閣情報調査室(内調)と今のメディアについて語り合うガチの座談会を、劇中ネット動画として随時挿入しています。

 

この映画は、ある医療系大学の新設認可をめぐり、裏に隠された危険な目的とその証拠を探るというサスペンス的な娯楽要素を含みながら、真実を覆い隠すために今の国家権力が「内調」という組織を通して、明らかに犯罪的なことをやっていることを告発しています。マスコミを操作するだけでなく、例えば安保法制の時に国会前の抗議行動に参加した民間人をマークして公安警察に売ることをやっているのではないかということ、守るものが違うということをストレートに見せています。

 

ただ同時に、多くの優秀な官僚たちが、今の政権が異常であることを分かりながらも「独裁的な政治体制」を守るために有無を言わさず動員され、個々のところで苦悩している面があるだろうことも思いました。「この国の民主主義は形だけでいいんだ」というのは、内閣参事官が主人公の一人、内閣府の若手官僚へ言い放った一言です。まさにこれが今の「アベ政治」を象徴する一言だと感じました。

 

この映画は最後の最後まで、余韻を残した終わり方をしています。主人公二人の「言葉として発せられない、見えない一言」に、いま参議院選挙のさ中だからこそ、私たちが考えていかなければならない意味が込められている気がしました。

 

さて、この映画の異例のヒットがどんな影響を見せるのか、ここまでヒットすると権力も下手に手を出せなくなるのか、色々考えるととても楽しみです。はたして安倍首相や菅官房長官などは、選挙期間中にこの映画がヒットしていることを、苦虫をかみ潰したような顔をして聞いているのだろうか・・・、いやいや記者会見で質問されたなら、きっとひと言「見てませんから、分かりません」と平静を装って言うのだろう。