これまでに何度か、従来のお位牌や過去帳の代わりとして「携帯位牌」を手に、法事を勤めたことがある。最初は遠方から来られる檀家さんのためのものという印象が強かったが、実際に接してみると、それだけではないことに気づかされる。
旅のときだけでなく、日常的に携帯している方もいるのだ。鞄に忍ばせ、ふとした瞬間に手を合わせる。その姿からは、「持ち運べる位牌」という言葉以上の、静かな信仰のかたちが感じられた。
今回の船旅でも、部屋の一角に携帯位牌を飾っている方がいた。揺れる船内という非日常の空間にあっても、そこだけは確かに「いつもの祈りの場」なのだろう。さらに聞けば、位牌だけでなく、分骨を持参している方もいるという。
旅先であっても、大切な人と共に時間を過ごしたい。その思いは、形式や場所を超えて受け継がれていく。携帯位牌は、単なる代用品ではなく、現代の暮らしの中で祈りを手放さないための、新しいよりどころなのかもしれない。



