船内の楽器広場で、毎朝七時から九時までウクレレを手にした。四十人を超える仲間が集まり、笑い声と弦の音が交じる賑やかな時間。それでも、どこか胸の奥に小さな空白を感じていた。


「そうだ、ここにベースが入れば、もっと深くて厚みのある音になる」


学生の頃、グループサウンズやフォークに憧れ、いくつものギターを渡り歩いてきた。しかし、ベースギターだけは不思議と縁がない。そんな私が、今回手を伸ばしたのがウクレレベースだ。


小さな体からは想像もつかないほど、低音は豊かで温かい。弦を弾くたび、音楽の土台が静かに整っていくのが分かる。新しいことに挑む自分が、少し誇らしい。


さて、この一音が、どんな景色を連れてきてくれるのだろう。


材もよく、音色も澄んだ木魚を一ついただいた。手に取ると、ころりと愛らしい。あまりにも小ぶりで、打ち鳴らすというより、まず眺めていたくなる。


読経の場よりも、今は卓上が似合いそうだ。ふと目に入るたび、静かな響きが心の中に蘇る。音を出さずとも、もう十分に役目を果たしている気がしている。


船旅には不思議な縁がある。限られた時間と空間の中で、初対面とは思えない人に出会うことがある。船友の中にも、そんな存在がいた。


乗船二日目の朝、船尾で一眼レフを構え日の出を追う男性に声をかけた。大阪の「まっちゃん」だ。私より一つ年下だという。

足を痛め、癌で胃を摘出したと聞いたが、いつも穏やかな笑顔だった。


食事の席でも寄港地でも、自然と行動を共にしていた。多くを語らずとも通じ合う空気があり、前世からの縁ではないかとさえ思えた。


別れ際にハグを交わし、再会を約束した。次に会う日が、もう心に浮かんでいる。