職業、旅人。 -2ページ目

EL ENCIERRO - エンシエロ(牛追い) - 6

日時:7月7日 08:02

場所:第2区間~第3区間 - エスタフェタの曲がり角 -


CRAZY LARRY - 在英ゲイの小部屋 -



身の毛もよだつ寒気とはこのこのとを言うのだ、と思った。

いや、身の毛がよだつ猶予さえなかった気がする。


背後から一瞬にして間を詰めてくる地響き。

なんとかして首だけをよじり後ろを振り返ると、

黒い巨大な塊が、俺の背後を走るランナーの隙間から姿を覗かせた。

その瞬間、俺はもう体を思うように動かすことができなくなっていた。

恐怖に直面すると体が固まって動けなくなるというのは、嘘ではなかったことを

このとき身をもって、初めて理解した。


足元もおぼつかないままに、俺はメルカデレス通りの終わりでつんのめってしまったその時、

前方右側にふっと体が流れた。


メルカデレス通りの突き当たりを直角に右に曲がると、エスタフェタ通りに入る。

一切の記憶がないのだが、俺はどうやらその曲がり角までは雄牛に追いつかれることなく走り抜け、

エスタフェタ通りに向かって曲がる90度のカーブに転がるようにして滑り込んだようだ。


時速30キロ近いスピードで一直線に突進してくる雄牛は、

この急激な直角のカーブをきれいに曲がりきれず、メルカデレス通りの突き当たりに設置してある

大きな黒い鉄板に向かってぶつかっていく。

何頭かは鉄板に体をこするようにして、また何頭かは鈍い音をあげてぶつかりながら、

次の瞬間には何事もなかったかのように右方向へ向きを変えてエスタフェタ通りの人込みへ突っ込んでいく。

そのうちの一頭は、俺のすぐ左脇を通り過ぎ、ふわっと風を感じたと思った瞬間にはもう、

数メートル先の鉄板に衝突していた。


その猛スピードのあまり、雄牛たちは大きなカーブを描きながらこの直角の曲がり角を曲がっていくため、

幸いにも曲がり角の手前側に転げるように滑り込んだ俺の外側を、ぐるうっと回り込むようにして、

雄牛たちは駆け抜けていったのだ。


裏を返せば、運悪く曲がり角の奥側にまで転げていたら、

それこそすべての雄牛に突っ込まれていたかもしれない、と考えただけでもぞっとする。


あれは、ただの黒い巨大な塊にしか見えなかった。

黒くて丸く、重厚な、そして意思を持った巨大な塊が、ただ突進してきた。

ひらりとかわす暇など、逃げる暇などなかった。

俺はただひたすらに曲がり角の内側で丸くなりじっとしているしかなかった。

ただただ、何事もなく雄牛たちが通り過ぎてくれるのを祈っているだけだった。


大きく2つの集団に分かれて、突進していった黒い塊たちは、

一瞬にしてエスタフェタ通りのむこう側へと消えていった。

俺の背後を襲っていた絶叫は、黒い塊とともに急速に遠退いていった。

それは、ほんとうに一瞬のできごとだった。


エスタフェタの曲がり角は、

俺の命を救ってくれた曲がり角だ。


この時は、おおげさでなく、心からそう感謝してしばらくの放心に身を委ねていた。

周囲の歓声とざわめきの名残が、いつまでもぼんやりと耳の奥でこだましているようだった。



CRAZY LARRY - 在英ゲイの小部屋 -






 エスタフェタの曲がり角。

 写真右奥に向かって90度に曲がった先が、エスタフェタ通り。





EL ENCIERRO - エンシエロ(牛追い) - 5

日時:7月7日 08:01

場所:第2区間 - 市庁舎前広場からメルカデレス通り -



CRAZY LARRY - 在英ゲイの小部屋 -

区間その2、坂を登り終えた先の市庁舎前広場からはじまるメルカデレス通り。

距離にして約100メートル。

二つの曲がり角があるため一見複雑そうな区間に見えるが、

実は最も危険の少ない穏やかな区間。


道幅も広く、ランナー達はゆったりとした走行を楽しめる。

また、ランナーが逃げ込める避難所も多く設置されている。


CRAZY LARRY - 在英ゲイの小部屋 -














市庁舎広場に建つ市庁舎

エンシエロの最中は、振り返って見る余裕などなく・・



坂を上りきると、開けたスペースに出た。

ようやく第一区間を抜け、市庁舎広場に出たのだ。


この広場は四角いスペースになっており、四方を建物で囲まれている。

黄色やオレンジに塗られた壁面が美しく、どの窓にも、広場に向かって小さなバルコニーが設けられている。

広場の北側には市庁舎が建つ。

長方形で美しい彫刻が施されたこの建物のバルコニーには、

6つの美しいナバーラの紋章が垂らされており、とても美しい。

のだが・・・、そんなことを考える余裕などあるわけがない。


俺は坂を上り終えた安心感に惑わされるまいと、

同じペースを保ちながら広場を対角に走り抜けて、メルカデレス通りに入った。


この通りは2つのカーブが連続しているものの、

人間にとっては道幅もやや広く走りやすい区間である。

一方、ひたすらに突進してくる雄牛にとっては、この連続するカーブで転送することがしばしば見られる区間だ。

そして雄牛が転倒して群れから離れてしまうと、危険なのである。

群れをなして真っ直ぐに突進しているうちは、前方にさえ立たなければまず襲われる危険性はないのだが、

群れから離れて単独で動き出すと、落着きを失って攻撃的になり、

脇に逃れたランナーにも襲いかかりかねないのだ。


CRAZY LARRY - 在英ゲイの小部屋 -




メルカデレス通り

一つ目のカーブを曲がった先の光景

あらためてこうして見てみてもと意外と長い。

エンシエロ中は、こんなにも長いのかと感じた通りだ



俺は、とにかく転倒だけはしまいと、慎重に石畳を駆け抜けようと思った。

背後の絶叫が徐々に俺との距離を縮めてきている気がしてならなかったが、

それでもまだ雄牛に追いつかれることなく、メルカデレス通りの2つのカーブをすり抜けていった。


頭上では、両脇の建物のバルコニーで見物している観衆の歓声があがっている。

そんな歓声が耳に入るくらいの落ち着きを取り戻せていたかのように思えた。

ここまでは順調にきている。


2つ目のカーブを抜け、メルカデレス通りの突き当たりまでたどり着きかけたその直後、

ものすごい勢いで、地鳴りとも地響きとも思える、低く重い振動を伴った音が、耳に飛び込んできた、

というよりも、体全体に響いてきた、と言うのが正しいかもしれない。


その一瞬の後、全身を大きな恐怖感が急激に支配した。

これまで保っていたはずの一定の走行ペースも完全に乱れ、足元もおぼつかない。


後方の悲鳴は、もう俺のすぐ背後まで迫っていた。




イギリス ロンドン - 眠らない金曜日 -

 英国ロンドンは、きょうも雨♪


夏のロンドンは夜が長い。


それは、単に日が長い、というだけではない。


確かに、北緯が高いのに加え、

サマータイム導入期間中は、夜の10時まで

空が明るい。


ただ、それだけはない。



何時になっても、

朝日が昇る時間まで、


ロンドン中心部は人で溢れかえっている。


車の渋滞はむしろ昼間よりもまし、

人はどこからともなく溢れ出し、


街の喧噪は、その音を幾段にも増していく。



今日は金曜日。


ロンドンの夜は眠らない。




英国ロンドンは、きょうも雨♪





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