先日、TSUTAYAの入り口で
ある看板に目が留まり、足を止めた。
元囚人(プリズナー)のトレーナー監修
〜ザ・監獄ダイエット〜
永遠の強さを手に入れる
最凶の自重筋トレ!
○ショットガンマッスル
○鋼鉄のガンマッスル
○防弾ジョイント
色々と
凄い。
最強を最凶と描いてるあたりに
好感がもてた。
なんだか分からないけど
やるやないか。
永遠の強さを手に入れるのもいいかな。
と購入を考えた時、
ふっと頭に
ずっと昔
ビリーズブートキャンプを本気でやりすぎて
救急車で運ばれるという
消し去りたい過去がよぎった。
25歳のわたしは迷っていた。
服屋さんで働いてはいるが
これでいいのか。
他にやること、あるんじゃないか。
答えは出なかった。
そんな時、
テレビの通販番組で
弾丸のような身体の黒人の男性が
貴様ら!!甘えずに身体を磨け!!
と激を飛ばしている姿に
釘告げになった。
これだ。
いやいや
なにが
これだ。だ!!!
何がこれだなのか
今となってはわからないが
若い自分が
かなり自分探しをしていたことだけは
頷ける。
気がついたら購入し、入隊していた。
ビリー隊長と同じ黒いタンクトップを着用し、
深夜、DVDを流しながら
ものすごい熱量で筋肉を鍛え、汗を流し、
最後は仲間たちと
画面越しにハイタッチ。
完全に、向こう側に行っていた。
両親は
同じマンション内の別室で就寝していたので
自分の娘が鬼の形相で
元陸上部隊の軍曹とともに
筋肉を鍛える火になっている姿を
見られなかったことだけが
不幸中の幸いだった。
そんなある日。
ことは起きた。
いつもどうり、全力でビリー隊長と一緒に
弱い己の精神と脂肪に
地獄の回し蹴りをお見舞いしていたその時、
急におなかが
ボンっという音をあげ
前に出た。
なにこれ…?
恐怖が襲う。
内臓破裂という
恐ろしい想像がよぎる。
腰が抜けた。
動けない。
力が入らない。
大変なことになった。
救急車を呼ばなければ。
私は力を振り絞り、119に電話した。
「どうされました?!」
震える声で、伝えた。
「あの…う、う、動けません。」
「動けないんですね。大丈夫ですか?
何をしていて、動けなくなられましたか?」
「えーっ、、、、、あの…」
「大丈夫ですか?
何をしていて、動けなくなられましたか?」
声を、必死で出した。
「ビ…
ビ…ビリーズブートキャンプをしていたら
おなかがポンとでて、動けなくなりました。」
「え?!」
お願いだから
聞き返さないで欲しいと思った。
その後
ビリーズブートキャンプをやっていたら
おなかがポンと出た。
というマンガのような説明を3回ほどした。
「救急車向かいます!」
隊員さんに伝わった。
良かった…
ほっとしたのも束の間
あることに気がついた。
まずい。。
私
タンクトップに
黒タイツ1枚やないか。
そんなんどうでもええがな!!
緊急時に気にすることか!!
ですが
25歳の女子。
気にするに、決まってる。
気を失いかけながらも
這うようにして、いや這って、
自分の部屋にゆき
1番、ラックの近くに掛かっていたワンピースを
むしるようにハンガーからとり
必死に頭からかぶった。
良かった…。
江頭2:50みたいな格好で運ばれずに済んだ…。
再び安心したが、
自分が来ているワンピを見て
ギョッとした。
1番、よそゆきの
シルクの花柄のワンピやないか!!!
お洒落すぎる!!
どこの誰が
深夜にシルクの花柄のワンピースを着て
ビリーズブートキャンプなんかやんねん!!
隊員さんに
嘘つけ!!
と思わるわ。
様々な光景が浮かび、不安になったが
残念ながら力尽き、
玄関の鍵を開けた時点で倒れこみ
目を閉じて
静かに隊員さんの到着を待った。
今となってはこうして淡々と書いているが
汗だくで
シルクの花柄のワンピースを着たまま玄関で
カエルのようにひっくり返り
死ぬのではないかという恐怖に
耐えている若い自分を誉めたい。
ピンポーン
加藤さん、大丈夫ですか!?
待ちに待った
隊員さんが来てくれた。
右目だけうっすらあけて
隊員さんの顔を見た。
イケメンだった。
イケメンだと認識した私の身体は
残る力を振り絞り
震える手で
前髪を直した。
何しとんねん!
まったく、
お年頃の女子の底力はすごい。
そのあとはあまり意識がないが
隊員の方が救急車の中で
「25歳女性、ビリーズブートキャンプの
やりすぎで気絶。」
という情けない状況が
これから搬送される病院に
伝えられいるのがわかった。
そして遠い意識の向こうで
「ビリーズブートキャンプです。
筋肉トレーニングです。」
と、隊員さんが繰り返しているのが
聞こえ
病院の方に
え??!と聞き返されたんだな
という事実も感じとれた。
情けない。
病院についてから
先生にも必死で伝えた。
「ビ、ビリーズブートキャンプをしていたら、、、お腹がでて、ずっと違和感があって
内臓が破裂したのかなと、、、怖くて、、」
泣けてきながらも
今日、何回
ビリーズブートキャンプて言っとんねん。
と自分とビリーに引いていた。
先生は、とても優しく
「落ち着いてくださいね。
まず、
お腹のレントゲンを撮りましょう」
車椅子に乗り
レントゲンを撮影し
私はもうよれよれの瀕死の有様で
先生のもとに結果を聞きに
看護師さんに連れられた。
レントゲン写真が貼られている。
先生は、真剣な顔で話し始めた。
「加藤さん、
ここのお腹の部分に塊が写っているの
わかりますか?」
ま、まさか、血の塊?
恐怖で、声が出ない。
血の気が引きまくっている私に
先生は、穏やかな声で続けた。
「これ、全部ね、便なんですよ。」
え?
「あと、この下のモヤありますよね?
これは全部、ガスなんです。」
え?
「加藤さん、すごい便秘ですね!
激しい運動で、便とガスが前に来たんですよ。」
しっかりと、目が開いた。
先生は最後に
笑いを堪えながら言った。
「加藤さん、立てるはずですよ。」
なんということだ。
瀕死の有様で車椅子にしなだれている自分。
意識の中の
カラスか何かが冷静にそんな自分を見ていて
あほちゃうか〜
と鳴いた。
便秘の薬を出され
帰り道は
しっかり歩いて帰った。
夜風に吹かれながら
世の中のみなさん
そして、両親に絶対恩返ししようと決めた
25歳の深夜のわたし。
翌年
お笑い養成所のNSCに入学して
頭にコンビニの袋をかぶって
フランスパンを手に持ち
よろしくおねがいしますと
しっかり挨拶した後
コントして
先生に声小さいて怒られるとか
まったく、知る由もなかったなあ。