第11章 決勝の日 -43- | d2farm研究室

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―43―

『今日の太陽系レースは、地球を舞台に展開されます──地球にお住まいの皆さんも、宇宙を見上げていただければ、地球上空に設置されたレインボーゲートを見ていただくことが可能なはずです』
 フルダチの声が、実況席から伝えられる。
『録画でご覧になっている皆さんも多いと思いますが、ライブでの視聴も可能です。できれば、ビデオ録画で結果だけ確認するのではなく、リアルでの体感ができるよう……是非、オンタイムで視聴をしていただけると、より楽しめると思います』
『そうですね……まずは、決勝の第1ラウンドのクイズ・セッションから開始されるわけですが、このセッションの見どころは、どこでしょうか?』
『ここまで、第1戦、第2戦と満点を獲得しているウィングチームが注目ですね。連続満点記録は、今回も継続されるのか?クイズスタッフも今回は難問奇問をたくさん用意しているようですから、楽しみです
 さらに、今回、導入されたハズレくじシステムが、ウイングチームの連続正解記録に、立ちはだかります。この決定も、楽しみの一つですね』
『そのウイングチームのピットに、ピットレポーターのイツキノさんが行っているようです』
『はい……ウイングチームのメインメカニック兼チーム監督のレイキ・スティングボードさんの所に、私はきております』
 ヒトミコの陽気な声がスピーカーから聞こえてくる。
『スティングボードです……ゲートセッションでは、まったく目立たない我がチームなので、このクイズセッションだけは、満点でトップポイントを獲得しようとしてますよ』
『やっぱり満点狙いなんですね』
『当然でしょう……どんな手を使っても、このセッションのトップだけは譲りません』
『力強い勝利宣言が出されました』
『パイロットのウミ……そして、ナビゲータのサエの気力・知力が充実していますからね……今日も、満点間違いなしです』
『なるほど……いつも、満点をとれるコツとかはあるのですか?』
『それは、企業秘密です……ただ、世界に誇るプログラマーを何百人と抱える、わがスコール・イーマックス社です。
 天才を何人も抱えているということをアピールできる最高の舞台が、この太陽系レースであることは、確かです……マシンの開発能力とパイロット技術では、他のチームに譲るところはあっても、クイズで負けるわけにはいきません』
『そうですね……
 ところで、今回から導入された、【ハズレくじシステム】に脅威は感じていませんか?』
『時の運……は、さすがに操れませんが、確率回避の策を講じることは可能です……期待してください』
『期待してます。がんばってください』
『イツキノさん、ありがとうございます。
 あいかわらず、このセッションでのウイングチームのモチベーションは高いですね。ゲスト解説のハットリさん……サッカーの試合では、満点というのはないですが、百点満点を付けられる試合とかっていうのはあったりするんですか?』
『1試合だけで、百点取るのは、いくら、あたしが点取り屋のストライカーでも無理ですよぉ』
『いえ……百点満点と評価できる試合という意味で言ったのですが……』
『でも、年間100点なら狙えるかなぁ』
『え?』
『2067年に、55得点っていう記録が生まれてて、未だに破られていないですよね……狙いたいなぁ……年間100得点』
 陽気な声でとんでもないことを言い出すユーコの発言に、ちょっと突っ込みを入れられず、フルダチが躊躇していると、ユーコは、さらに言葉を続ける。
『Jリーグの記録で、ハットトリックを達成した人の名前が出てますよね。昨日、あたしが記録したのが1333回目なんです。だから、今年中に、1500回の記録を作ってみたいんですよね……あたし、メモリアルゲームってのが、今までなかったから、とっても欲しいんです』
『おお、それは実現すれば、素晴らしい記録ですね』
『残り25試合で、17回かぁって思うと、ちょっと大変かなって思うけど、まぁ、なんとかなっちゃうかなって』
『今日も、サッカー関連の問題がいくつか用意されているらしいですから、あまり、ヒントになるような発言は……』
『そうなんですか?じゃ、問題になりそうな話題はNGってことですね……了解です』

「ユーコらしいね」
 ハルナが嬉しそうにコメントする。
「へぇ……こういうキャラだったんだ」
「きっと、リップサービス……先週会ったときの姿が、ユーコの素の姿だからね」
『今まで、太陽系レースのクイズセッションで満点を出した記録は、ウイングチームの7回ですが、他のチームは一回も出せていないんです……こちらの記録も、すごい記録です』
 イマノミヤの解説が続く。
『このレースの問題って、結構、ひっかけ多いですよね……あと、既に、公的に抹消されたブログからの問題とかもあるし、一般利用者のツイッターからの問題とか、どう調べたって、そう簡単には検索できないんですよね』
『その辺は、もうウイングチーム対策ということで、クイズスタッフが、無理やり作ったという問題の一つですよね』
『へぇ、やっぱりそうなんだ……ウイングチームってすごいんですね』
 ユーコは、あいかわらず、軽めの口調でコメントをしている。
『それでも、正解を回答してしまうんですから……もはや、手の打ちようがないってスタッフは嘆いていましたよ』
『そこで、導入されたのが、今回の【ハズレくじ】システムです……もう、スタッフも、なりふりかまっていないですね』
 イマノミヤも、そこで【ハズレくじ】システムに触れる。
『これをウイング・チームが、回避するようなら…ハズレの本数多くしなくては…と出題スタッフが……本当に嘆いていました』
『スタッフさん、あまり嘆いてばかりだと、はげちゃうんじゃないですか?……
 気をつけてねって、言ってあげてください』
『ハットリさんが、直接言ってあげると、みんな喜びますよ……今の言葉でも、きっと、喜んでくれてるはずです』
『そうかな?……じゃ、クイズスタッフの皆さん、頑張って、あまり悩まずに、楽しいクイズを作ってくださいね…で、いいの?』

『あと…成績が良いのは、オータチームですね……正答率は、92%を誇っています』
 脱線しそうな、ユーコの解説を遮るように、イマノミヤが、話の方向転換を図る。
『92%というのも、相当ハイレベルな成績ですよね』
『事実、クイズセッションのポイント差で、順位が確定したってケースもありますからね。このセッションは、侮ることはできないです』
『でも、今回初出場のチームの記録ってないんですよね』
 初めてのゲスト解説で、思いっきりはしゃいでいるユーコが、振られてもいないのに、再度、マイクに向かってしゃべり始める。
『それは、もちろんそうですが』
『ルーパスチームのハルナってナビゲータいるでしょ……彼女の知識レベルは、一般人の3倍増しだから……その辺の、資料ってありますか?』
『そのナビゲータの資料なら、しっかり揃ってますよ』
『あ……そっか、イマノミヤさんて、ハルナに、プロ────』
 ユーコが解説しているマイクに、その瞬間、露骨なミュート操作が行われたのが、はっきりとわかった。
『ルーパスチームのハルナ・カドクラさんの昨日のパフォーマンスは、とても素晴らしいものがありましたが、クイズセッションで、どこまで、その潜在能力を発揮してもらえるか…非常に楽しみです』

「ユーコのリップサービスも、度が過ぎることがあるから……口塞がれちゃったみたいね」
「あんなに明るいキャラだったんだ」
「だから、あの子は、ああいう席ではキャラ作っているんだよ」
 ゆっくりとカタパルトデッキへと進んでいくZカスタムの中で、ハルナが、親友の発しようとして消えてしまった言葉の続きを想像して楽しんでいるように、イチロウには思えた。
『イチロウ…いよいよ本番だからね』
 エリナの真剣な言葉が、スピーカーから届く。
「ああ…緊張してきた」

 太陽系レースの決勝戦は、午前中に実施されるクイズセッションと、午後に実施されるゲートセッションで構成されている。
午前中のクイズセッションは5周と規定されていて、制限速度は、特に設けられてはいない。
ゲートセッションで使用されるレインボーゲート8基──それにプラスし、スタート・ゴール地点となるブシランチャーと、その対角線上に設置された追加ゲート1基の、合計10基を回答ボードとして、1周で10問のクイズが出題される。
 地球の周りを5周することで、合計50問──1問が100点換算となるため、全問正解で5000点がクイズセッションに於ける満点となる。
クイズのジャンルは多岐に渡り、歴史問題、漢字問題、芸能問題、スポーツ問題、一般教養などから出題され、難易度は、15%がEasy、20%がNormal 、10%がHard、3%がVeryHard、残り2問がNoAnswerというランク分けがされている。
 NoAnswer問題は、答えが用意されていない論述問題となっていて、これは、他の問題と違い、回答した結果で1点以上100点以下の採点が行われる。
午前9時55分──
全ての機体が、それぞれのカタパルトデッキにスタンバイを終えた。
『あと5分で、クイズセッションのスタートです』
『先ほど、ウイングチームのインタビューがありましたが、他のチームの見どころは、どうでしょう?イマノミヤさん』
『今回、予選組で、決勝に初めて挑むのが、先ほどハットリさんが挙げたルーパスチーム──そして、そのルーパスチームとスプリントセッションで互角の勝負を見せてくれたサットン・サービスチームですね。
他のチームは、今までに何度か決勝で、このクイズセッションに挑んでいますが、やはりHard以上の難問については正答率が悪くて、平均点近くの成績ですね』
『カカシ・チームとかは、あまり安定してないですよね──このセッションでは』
『そうですね──ゲートセッションでは、安定した強みを見せてくれますから、クイズセッションで成績が良ければ、上位を狙えます』
『ブシテレビチームはどうでしょうか?』
『永遠の8番目のチームという汚名を返上したいといつも言っていますが、クイズもゲートも、いつも平均点といったところですね。前回8位──そして、前々回8位と、安定していますが、今回は、絶対に7位以上を目指すと公言しています。期待できるのではないでしょうか?』
『そうですね、ハットリさんは、レギュラーチームの中で、気になるパイロットとかはいますか?』
『ルーパスチームのピンク・ルージュ──ハルナ・カドクラは、わたしの親友なんです……だから、どうしても、彼女を応援したくなっちゃう』
『そうなんですか?』
『もう……イマノミヤさんは知ってるはずですよね』
『はぁ……まぁ、知っていますが』
『あと恋人にするなら……やっぱり、ルーパスチームのシティウルフ……大好きなんですよ……わたし、彼のことが』
『へぇ……あまり、イケメンとは言えないですが……』
『男性は、顔じゃないですよ……それに、顔がいいだけなら、Jリーグにもたくさんいますよ』
『エイク・ホソガイさんとか、仲がいいと聞いていますが』
『去年まで、同じチームでしたから……仲はいいですよ。婚約者ですしね』
『そうでしたね』
『彼…今日は、ルーパスチームの応援したいって、放送が始まる前に、パドックのほうへ行ったみたいなんだけど』
『どうやら、そのパドックからレポートが入ってきたようです』
 フルダチが、ユーコのおしゃべりが止まらないようなのを察知して、無理やりピットレポーターを呼び出したようだ。
『はい……こちら、ブシランチャー2号機パドックの今一番の注目チーム──ルーパスチームの代表…エリナ・イーストさんのコメントが聞けるようなのでやってきています』
「へぇ、エリナがコメントだって」
「お姉さまも、あまり余計なこと言わないほうがいいんですけどね」
『どうですか?エリナさん……自信のほどは?』
 もう一人のピットレポーターであるスナオ・ハヤカワが、エリナに問いかける。
『クイズセッションは、まったく問題ありませんよ』
『ある程度の成績を狙えるということですね』
『狙いは満点の5000点ですよ』
『すごい自信ですね』
『さっき、ゲスト解説のハットリさんが言っていましたよね……ハルナ・カドクラの知識レベルが、一般人の3倍増しだって……あの言葉って真実だってこと──1時間後には、はっきりしますよ』
『と…エリナさんが言っています。やっぱり、注目度満点ですね』
『では……後は、イチロウとハルナに任せます──あたしは、昨日徹夜で疲れてるので、少し寝ます』
『え?寝ちゃうんですか?』
『はい……あたしは、クイズは苦手なので、二人の足を引っ張らないためにも、余計な口出ししたくないの……それには、寝ちゃうのが一番でしょ』
『はぁ?』
『では、視聴者の皆さん、おやすみなさい』
『メカニックトラブルがあったりしたらどうするんですか?』
『太陽系レースで、あたしが整備した機体で、燃料切れ以外のマシントラブルが起こってないって…知らないの?』
『あ…それは……知ってます』
『嘘ばっかり……ピットレポートするなら、ちゃんとヒトミコちゃんみたいに、いっぱい勉強してきてよね』
 エリナがいつになく厳しい口調で、レポーターのハヤカワを叱責する。
『1号機からも一言言いたいってチームがあるんですが、マイクもらってもいいですか?』
 あたかも、エリナの言葉で召喚されたかのようなタイミングで、レギュラーチームサイドのレポーターのヒトミコからコールがかかる。
『イツキノさんは、どちらのピットですか?』
『ソーサラーチームです』
『どうぞ』
『ソーサラーチームのメカニック担当のスミノエさんが、ウィングチームへメッセージがあるそうです』
 ヒトミコの緊張気味の声が伝わる。
『ウイングチームの代表どの……こちらは、ソーサラーチームのスミノエだ……我々は、そちらのチームが行ってるクイズセッションにおける不正の証拠を握っている。この場で、暴露されたくなければ、このセッション……不正を使うことなく戦いに挑んで欲しい』
『スミノエ代表から、とんでもない発言が飛び出しましたが……真偽のほどは、どうなのでしょうか?』
 フルダチの驚きのコメントが発信される。
『確かに、ウイングチームの異常とも言える正答率は、今までも不正によるものであるという噂はあったのですが』
『へぇ……そんなことしてたんだ……ウイングチームって』
 やはり、黙っていられないようで、ユーコが口を出す。
『スミノエ代表のコメントはそれでよろしいですか?そろそろ、スタートの時間です…マイクを放送席に戻します』

「スタート前に、なんかごちゃごちゃやるのって、感心しないんだけどなぁ」
 ハルナが呆れた口調で、イチロウに言う。
「俺たちは、俺たちにできることをやればいいんじゃないか?」
「そうだね……イチロウもたまには良いこと言うんだね」
「ところでエリナは、どう思う?
 あのウミちゃんたちが悪いことをするとは思えないんだよな…俺はさ」
 しかし、エリナからの返事はない。
「エリナ?」
「きっと、エリナ様は、お休み中だと思うよ」
「え?」
「エリナ様との、直接のつきあいは、イチロウのほうが長いんでしょ…あのコメントで『おやすみなさい』って言ったら、もう爆睡中間違いなしだよ……モニタ映像で確認する?」
「いや…いい、もうスタートだし」
「そうそう…そういうこと……ここは、エリナ様が安心して眠れるように、ハルナとイチロウが頑張るしかないんだからね」
「わかった」
「集中してね」
 
Zカスタムの前方には、リニアカタパルトの誘導灯が明るく光っている。
まだ、発信できないため、誘導灯の光は、赤に近いオレンジ色である。
そして、この誘導灯がブラックアウトした瞬間が、レース開始の合図となる。
クイズセッションの役割について、イチロウが、ステアリングを握り、周回コースをきっちりとコントロールすることは、事前の練習中に、しっかりと決められていた。
そして、クイズの問題を引き出すトリガーをハルナが受け持つ。
トリガーアクションで引き出された問題を解答する時間は、難易度に関係なく一律30秒と決められているため、その時間内で、必ず、解答ボードのゲートステーションを通過しないといけない。
ハルナが決めた答えをイチロウが聞き取り、その解答となる色のスクリーンを通過することで、解答が完了する。
『いよいよ、スタートのカウントダウンです』
 フルダチの落ち着いた声が、スピーカーから流れる。
10…9…8…7…6…5…4…
そして、誘導灯最前列の三つのランプが一つずつ消灯していく。
3…2…1
『ブラックアウト!!』
 フルダチのシャウトに近い実況放送が、響き渡る。
 ブシランチャー1号機のレギュラーチームの8機、そして、ブシランチャー2号機にセットされた予選組チームの8機…それら各機体が、一斉に、コース上に放たれる。
もちろん、Zカスタムも例外ではなく、オートスタート機能に従って、既に慣れつつある心地よい加速Gをイチロウとハルナも感じていた。
「まずは、30kmまで加速してね」
「わかってる」
「ごめん……」
「いいよ…今のハルナの言葉で、緊張がほぐれた…ありがとう」
「ゲートセッションでトップを取る自信はあるけど、どんなケアレスミスも、出したくないから」
「来月のレースでは、少しはクイズの勉強しておくよ」
「期待してないから…」
「そう言うなよ」
「2分後に、最初の問題を開くね……即答できる問題だったら、ちょっと加速してゲート通過しちゃうから」
「了解──」
「制限速度はないから、イチロウが良ければ、140kmまで上げちゃってもいいからね」
「それだと、結構忙しくならないか?」
「1周だいたい5分だから、1問に、ちゃんと30秒かけられるし、ちょうどいいんじゃない?」
「5周目は、そのスピードでやってみるか?」
「ノーアンサー問題は、5周目の1問目と6問目なんだけど……イチロウがいいなら、ハルナは構わないよ」
「じゃ…決まりだな…」
「でもさ…今日のセッティングで140kmは無理だよね」
「ハルナが言いだしたんじゃないか?」
「ごめん……エリナ様から、120km以上出しちゃダメって言われていたんだ」
「しっかりしてくれよ」
「イチロウもね……」
『各機体──それぞれの思惑を抱いてか、意外と静かなスタートでしたね』
『そうですね──もっとも、1周目は難易度Easyの問題が多い共通問題ですから、万一、この周で、ポイントを稼げないようなら、高得点は望めません。おそらく、ウイングチームの解答を確かめてから、他のチームは、ゲート通過をするつもりでしょうね』
『確かに、先頭はルーパスチーム、オータチーム、それに続いて、ウイングチーム…後のチームはウイングチームの後方ですね』
『なんか、みんなせこいよね……あたしは、こういう作戦好きになれないな』
 ユーコが、明らかに不服そうな口調でコメントをする。
『まぁ、2周目からは、チーム別の固有問題になりますから、各機とも、それぞれのペースになると思いますよ』
『全部、固有問題にすればいいのにね…なんで、そうしないの?』
『伝統というか、なんというか、でも、普通、不公平をなしにするためにも、基本的には、問題は一緒のほうがいいじゃないですか』
『そっか、問題が別々だと、視聴者が楽しめないってのはあるかもね』
『そうです、そうです……それに、実は実況もしづらいんですよね』
『その1回目の問題を1番初めに開くのは、どうやらルーパスチームのようですね』
 ハルナは、スタートから、きっちり2分経過したところで、モニター画面に表示されてる『問題文ゲット』トリガーボタンをクリックする。


【共通問題第1問:本日のゲストにちなんだ問題です……ゲストのユーコ・ハットリさんは、Jリーグに所属していますが、今年の4月11日にハットトリックを達成しています。これは、Jリーグ記録としては何度めの記録──かというと、1333回目ですが、では1回目を記録したのは誰でしょう?】

「なんか、これって、問題直してるんじゃないかな?」
「そういえば、さっき、ユーコちゃん、思いっきり答え暴露してたよな…1333回って」

【解答 1・ジーコ 2・アルシンド、 3・カズ・ミウラ 4・ユーコ・ハットリ】

『あ・・・この答えなら、あたしでもわかるよ』
 ちょっと不機嫌気味だったユーコの声があきらかに機嫌よくなったのがわかる。
『答えは、え・・・と……』
 またしても、ユーコの声を拾うマイクがミュート化される。
『言っちゃだめですよ……ハットリさん』
「やっぱり、言っちゃったんだ」
『……だって、知らない人がいるとは思えないし、検索すれば、一発で出てくるよね』
『それでも、言っちゃだめなんです』
『変なの?それじゃ、あたし、もう何にも、しゃべっちゃいけないの?』
『答えさえ言わないでくれれば、何をしゃべってもいいですよ』
「なんか…リアル視聴者が増えだしたみたいだよ」
 ハルナが、ぽつりとつぶやく。
通常は、難問が出たときのデータベース検索のため使用するサブモニタに、実況放送の受信者マップが小さく表示されているのだが、確かに、少しずつ録画視聴者数と、リアル視聴者数の数が上昇してるのが、イチロウにもわかった。
「考えてみれば、ユーコの生出演ってスポーツニュースでも、ほとんどないから、隠れユーコファンが、こっそり録画始めたのかもね」
「彼氏がいるって公言してるっていうのに、ファン心理というのは不思議だね」
「それはね……相手が、エイクってのも、けっこう、ポイント高いんだよね──
 エイクは、あれで、サッカー少年たちに人気あるから……
あ、いけない。時間オーバーになっちゃう。イチロウ、スピード上げて」
「そうか…わかった」
 イチロウは、ハルナの言葉に素直に従い、Zカスタムを加速させる。
「で・・・答えは、何番なんだ?」
「はぁ?」
「だって、答えはハルナが教えてくれるんだよな」
「そうだけど……まさか、知らないの?」
「いや…たぶん2番だってのはわかってるんだけど、イマイチ自信がなくって」
「……」
「あれ?違うのか?」
「いいから……1番のレッドスクリーンを通過して」
「ハルナが、そう言うなら」
 Zカスタムは、一瞬、2番のブルースクリーンに機首を定めたように見えたが、軌道修正して、レッドスクリーンの、ど真ん中を通過していった。
『ルーパスチームのZカスタムは、迷うことなく、1番を選択したようですね。後続のチームも、全てレッドスクリーンを通過していくようです』
『もう答え…言ってもいいの?』
 マイクのボリュームが回復したと思われるユーコのコメントが流れる。
『まだ、2チーム残ってるから駄目です……って言うか、答えは、絶対に言ってはいけません』
『イマノミヤさんって、意外と心が狭い人なんですね……って後で、ハルナに言っておきます』
『いやいや……心が狭いとか広いとかの問題ではないですよ』
『あ……そうか、全員違う問題だと、こうやって答え合わせをする楽しみがなくなっちゃうんだ』
『そうです……わかってくれましたか?』
『うん……よくわかりました。でも、それじゃ、なんで2周めからは、チーム別に問題が出るんですか?』
『正確には、チーム別ではないんですよ』
 そこで、イマノミヤとユーコにまかせっきりだったフルダチが、冷静に、説明を始めた。
『1周目は共通問題として10問全てが、各チームに行き渡るようになっています……
 そのあと、2周目の11問めからは、ランダムチョイスとなるんです。
 11番目以降の問題は、全て異なるようになっています』
『つまり、チームごとに問題用紙が作られるのではなくて、全部の問題が寄せ集まってる問題用紙の上から順番に、問題を選んでゆくっていうことですか?』
『そうです……だから、スピードのある機体を使用しているチームが、11問目から20問目まで、続けて、問題ゲットして解答するということもできます』
『ハルナのチームなら、やっちゃいそうですね』
『でも、初めのほうにEasy問題が多いとは限りません』
『1周目は10問…2周目からは1周ごとに、160問が出題されるということなんですね……よくわかりました』