痛みが引いてきたので、俺は茂みの中を急ぎ続けた。銃声がした場所か、轟音の鳴り響く場所か、どちらに進むか悩んだのだが俺は轟音のする方へ歩みを進めた。銃声がした方に向かわなかった理由はある。たった5回の銃声がしただけで、それ以降物音がしなかった。静寂、それは戦いの終焉の物言わぬ証拠であった。

「無事でいてくれ・・・。」

 祈るように呟いて俺は茂みを抜けた。そして見た光景は、所々裂傷があり、血を垂らした白が真田十勇士の一人である根津 甚八と死闘を繰り広げているのを。俺は水の龍を作り上げ、甚八めがけてそれを放つ。

「それは・・・才蔵の・・・。」

 甚八はそういうと黒い粒子を自分の前方に集め巨大な盾を作り上げる。すさまじい音をたてて水の龍は消え去った。白はこちらに笑顔を向けてこう言った。

「樹君・・・。さっきはごめんね。彼女は強いから気をつけて・・・。」

 すると白は力が抜けたかのように腰を抜かして尻もちをつく。そして俺は氷雨を抜いて槌をもっている甚八に切りかかる。すると甚八の手から槌は粒子状になってどこかに消えてゆき、再びそこに集ったときには二本の刀となっていた。二刀に氷雨は弾かれ、俺は後ろに飛び退く。

「能力は・・・鉄か?」

 そういって俺は再び切りかかると白の制止がかかる。

「彼女の能力は鉄じゃない!それは・・・。」

 彼の助言を聞き終わる前に俺はそれを体感した。全身に刺すような電流が流れる。

「あ・・・が・・・。」

「あっけないねぇ・・・。」

 そういって甚八が俺の首に刃をつけた瞬間、後ろにいる白は雄叫びをあげた。

「あぁあああああああ!」

 白の様子がおかしい、そう思う間もなく俺は驚愕することとなる。後ろから甚八めがけて飛んできたのは雷でつくられた巨大な龍だった。元々、電気系の能力は造形には向いて無く、それほど大きな龍を作るなど、かなりの実力の持ち主であろうとなし得る事は出来ない。

「なに・・・・?」

 甚八はすぐに飛びのき今度は白に向って刃を向ける。むくりと起き上がる白の目は黄金に輝いていた。

「龍が・・・降りた。」

 伊賀に三匹目の龍が降り立った。


【3対6】

 戦いが過熱する中やっと俺は意識を取り戻した。腹痛と頭痛によろめきながらも轟音のする方へ一歩一歩歩みを進めていった。

「風雅のやろー・・・。後でぼっこぼこにしてやる・・・。」


 一方、突然の犬千代の出現に花と京香は戸惑うばかりであった。特に花は二年前に彼の死を目撃している故に状況をつかめずにいた。花は知らぬ間に涙を流した。

「なんで・・・あんたがここにいるのよ・・・。」

「話は後だ・・・。来る!」

 犬千代はそう言うと花を抱きしめて後ろの茂みに飛び込む。丁度その瞬間に別の方向から望月 六郎が日本刀で彼らがいた場所を薙いだ。一人取り残された京香を望月は前蹴りにて犬千代と花がいる逆方向の茂みに飛ばす。

 飛ばされた後も京香は更なる追撃を受ける事となる。望月の後ろより現れたもう一人の六郎である海野 六郎が四本の苦無をなげてくる。京香は体勢を崩していたので二つの苦無が肩に突き刺さる。

「くそ!」

 そういって彼女は再び獣化するのだったが、その瞬間に海野は舌打ちをして奥の茂みに逃げ込む。そしてその直後に別の茂みより花が現れる。

「京香さん!犬千代が一人で敵と!」

「わかった、今から応援に行くわ。」

 

 京香がそう返した瞬間二つの銃声が鳴り響く。迫りくる銃弾を避けようとしたものの彼女は予期していなかった人から雁字搦めにされる。花だ。銃弾は京香と花の足もとに突き刺さると、恐ろしい速度で植物の根をそこから生み出した。

 それはたちまちに京香の両足をからめ捕る。再び二つの銃声。次は京香の両腕に弾は命中する。不思議と痛みは無かったものの、次の瞬間、彼女の両腕は燃え上がった。

「ぎゃああああ!」

 そう叫ぶ京香に冷たい視線を送る花。彼女は顔に両手をあて、すぐにその手を放す。するとそこにある顔は先ほど茂みに逃げて行った海野六郎ではないか。驚愕の暇もなく彼女は止めの一撃を心臓に喰らう事となる。茂みから銃を持った長髪の男が出てくる。それは十勇士で二番目に強いといわれている筧 十蔵である。

「流石ね、『銃』蔵。」

「お前こそな・・・『知らず』の六郎・・・。今頃・・・『死なず』・・・の方が芸を見せているのだろうな。」


 襲撃してきた望月の攻撃を花はことごとく避け、反撃の一撃を彼の左胸に打ち込む。

「うぐ・・・・。」

 そういって望月はその場に倒れる。花は脈を確認し、確実に望月が死んだことを確認した。

「京香さん所に行かなくちゃ・・・。」

 犬千代との再会に元気を取り戻した花はそう意気込んで京香がいる茂みの方へ向かおうとした瞬間、犬千代が彼女の腕をつかみ、行動を制した。

「待て・・・。まだやる事がある・・・。」

「え・・?何・・・?」

 犬千代は花の太ももに匕首を突き刺し、こう述べる。

「お前の始末・・・。」

 花は状況を読めぬままに背中に激痛を感じ、背中を突き抜けて腹から日本刀の刀身が突き出ているのを目にした。

「お疲れ・・・。もう眠っていいぞ・・・。」

 その言葉とともに、花の意識は永遠に戻らなかった。犬千代はたちまち姿を変え穴山 小助となった、いや、元の姿に戻るという形容の方が正しいであろう。花の体から日本刀を抜ききった望月は事も無げに服についた砂を払い落す。

「相変わらずお前の変身術はすげぇなぁ!相手の心の中の死者の姿にまで化けられるなんてよぉ!」

「望月さんの方がすごいよ・・・。だって・・・死なないじゃん・・。まぁ・・・とりあえずこれで二人殺せたね・・・。」

 そういって四人の忍者は再び茂みの奥へ消えていった。そして、俺はまた大切な人を失った。幸か不幸か、彼女を殺したのは彼女が愛してやまない相手の姿であった。もし、俺が誰かに殺されるなら、愛する人の姿をしたものが良いのではないかと今は思う。それが彼女にとっての救いであったと俺は思いたい。


【3対6】

 単独で動いていた伊賀の集の中で、花と京香だけは二人で行動していた。花の耳に何者かの足音が入った。

「京香さん・・・・誰かがいます。」

「そう?じゃあ戦闘態勢に入らないとね。」

 そう言うと京香の手は虎のように変わり、背中より羽が生える。

「来たわ!」

 花がそう言うと京香は茂みに飛んでいくが、彼女の腕は動かなかった。

「な・・・・何であなたが・・・・?」

 茂みにいる影が姿を現し、続けて花が絶句する。そこにいるのはあの時から、二年前から姿がまったく変わらないあの男が、伊賀のために命をささげたその男、大野犬千代が立っていた。


 猿飛佐助は、左手に固定され剣で岩代入道に切りかかるが、その腕にはじかれてしまう。

「我が体に刃は通じん。」

 岩代入道は佐助をはじいて追撃するものの、その速さを眼で追うことすらできなかった。そして佐助は再び岩城入道に左手の刃を突き立てるものの、その腕は一向に刃を通そうとしなかった。

「何度言えば済むのだ・・・。」

「へっ!十勇士の長がそう馬鹿な真似するわけないだろ!」

 そういって佐助は刃の周りの空気を高速で回転させる。まるでそれはチェーンソーのように唸りを上げて岩代入道の腕を引き裂く。

「ぐああああ!」

 岩代入道は激痛より叫びをあげる。しかしここで引き下がれるわけでもなく彼は巨大化する。佐助は勇敢にもその巨人に剣先から放たれる巨大な超高密度のかまいたちを放つ。そのかまいたちは巨人を真っ二つにする。

「筋はいい、能力もある。悪いのは戦った相手だな。」

 そういって猿飛佐助はその場を後にした。


【5対6】