甲賀の抜け忍達がやって来たのは大阪城。彼らはここで護衛の任務に付くのであった。その相手は大御所家康の孫娘であり、太閤秀吉の義理の娘となる千姫であった。


「鏑木一派七忍、ただいま参上でござます、姫。」


「くるしうないぞ・・・そちのなまえは・・・?」


 あどけなさの残った透き通った声が一室に響き渡る。あどけないのは声だけでない、姿や振る舞いも齢十五の美姫から感じる物は、美しさとあどけなさの入り混じった一種妖気にも見た名状し難い者があった。白鷺、佳乃の女衆も含め、彼ら七忍は一瞬で彼女に魅了された。


「ごんた・のあ・よしの・ごく・しらさぎ・まこ・まるじい!よしっ、これでみなのなまえをおぼえたぞ!これからわたしをしっかりとまもってたもれ・・!」


「ハハッ!」


 にっこりと笑う千姫に対して、七忍は揃ってひれ伏した。声は上擦り、振るえ、彼女の顔を見れなかったのは、身分の問題ではなく、彼ら自身がこの姫に仕えたいという衝動に一斉に駆られたからである。




 それから五日がたった。彼らそれぞれ千姫と話し、侵食をともにした。彼らは一人一人姫に心を開き、あの乃亜や摩狐でさえ少しであるが言葉を交わす様になった。まさに、人を惹き付ける魔力を持っているといえる彼女に対しては、『牙の無い狼は、犬っころよか屑だろーが!』などといって伊賀と争うことをやめた甲賀と縁を切った彼らでさえも、千姫にあって徐々に変わっていった。




 さらに二日後、彼らは幸村を連れて九度山より帰ったときに彼女は、涙を浮かべて白鷺の胸に飛び込んだ。


「おそい、おそいぞ!ごんたものあもしらさぎも!」


「すいません・・・千姫様・・・・。白鷺はお傍におりますれば・・・・。」


 白鷺はすっと千姫を抱きしめる。すると他の六人は口をあんぐりとあけて呆然とした。普段の気だるげな彼女からは見えようとは思えなかった慈愛の満ちた姿は、凄まじく母性を感じさせた。


「まこのかるわざも、まるじいのおはなしももっとききたいぞ!」


 そういって千姫は白鷺の胸に横顔を寄せながら、無垢の笑顔を見せる。彼女は知らない、これより血で血を洗う凄惨無比の忍術合戦が始まろうとは。

 時は遡る事一週間、七人の忍者は大阪城へ向かうためにその城下町を歩いていた。


「お姫様を守るっつーのは、ガラじゃねーな・・・・。」


 七人の甲賀抜け忍の頭である鏑木 権太(かぶらぎ ごんた)は豪快に欠伸をしながら体を伸ばす。七年前に他六人を率いて里を出た先代佐助の一番弟子である。


「金が無いんじゃどうしようも無いじゃないか・・・・。」


「そうそう、だいたいゴンタが無駄遣いするからでしょ!乃亜もそう思うでしょ?」


 七人の頭脳ともいえる御厨 獄(みくりや ごく)が持ち前の笑顔で権太をいさめる。そして町娘のような格好をした佳乃が弟の乃亜に同意を求める。乃亜は黙って頭を縦に振った。それを横から遊女風の女である白鷺が気だるそうに声を発する。


「まったく・・・。本当にアンタは愛想無いわねぇ・・・・向こうのお面もそうだけど・・・・。」


「これこれ、白鷺、乃亜と摩狐をからかうでない・・・・。」


 よこから白鷺を注意したのは丸爺とよばれる老人で、本名は仲間の誰も聞いたことが無い。そして白鷺が悪口を放ったもう一人の相手が摩狐(まこ)である。彼は狐の面で顔を隠しており、表情を読み取ることが出来ない。


「おぉっ!?面白そうな奴らがいるなっ!」


 権太は道の向こう側からやって来る十人ほどの侍の集団を見つけるや否や、彼らに向かって走り、体当たりを食らわす。それを受けた侍達は激昂し、腰のものを抜き放ち、白刃をひらめかせる。


「うぬらっ!何者よ!?我らを武家と知っての狼藉か?」


「知ってたらどうするよ、へっぽこ侍さんよ!」


 権太が挑発するや否や、侍の一人は彼を一刀のもとに切り伏せようとするが、それは叶わなかった。振りかざしたはずの刀は腕もろとも弾ける。それに怯える侍を横目に見ながら権太は笑う。肩、腰、足、首とその侍の体は次々と弾け飛んだ。


「下卑た男達ねぇ・・・・。」


「ほほっ、元気なのは良いことじゃよ!ただ、吠える相手を間違えたな・・・・。」


 白鷺が侍の耳元で何かを呟くと、彼は嘔吐し、痙攣しながら息を引き取った。その様子に呆気に取られている侍達の前に丸爺が現れ、袖から覗く神の包帯が意思を持ったかのように動いた後、鉄のように硬質化して侍を刺し貫く。それに続くように乃亜が水の刀で侍達を一刀両断にし、摩狐がその仮面をずらし、美しい口元より凄まじい豪炎を放つ。


 彼らが去った後には、炭クズになった肉塊だけが転がっていた。そして彼らは大阪城へ進む。


 翌日、九度山襲撃の件は伊賀に届いた。


「頭領!何者かの襲撃により九度山に居た堤 草月及びその十四名の部下が死亡。敵は真田 幸村とともに闘争した模様!」


「・・・・真田・・・・。おそらく彼奴は大阪であろう・・・。ことの仔細を確かめるため、俺は甲賀に向かい、そのまま大阪へ向かう。大御所の依頼もあるからな・・・・。」


 そう答える伊賀の頭領は二十代後半の白い髪をした美男であった。報告に来た忍者はその内容に心配してこう続ける。


「しかし、頭領!護衛は・・・!?」


「いらん・・・。草月がやられる程だ・・・・うぬらが行っても意味が無いぞ・・・。それとも・・・なんだ・・・俺を信用してないのか?」


 彼はそういうと善は急げと言わんばかりに伊賀を出て甲賀へ向かった。甲賀に入ってすぐに彼は歓迎され、長老である廻神の元へ連れて行かれた。彼の屋敷で待つこと数分、白髪の初老の男、三十路程の金髪の男、二十代半ばの女の三人がやってくる。


「この度・・・・伊賀より遠路はるばる・・・・。」


「んでっ、んな事より・・・・用件はなんだい・・・?わざわざ君がくるぐらいなんだからさ!」


 白髪の男、廻神が丁寧に礼を途中に金髪の男、鬼面が割り込んでくる。すると彼は昨日の事件を話し、真田についての情報を貰いたいと述べた。


「俺らの事を疑っているのか?」


「いいの、鬼面様・・・私達が幸村様と繋がっていたのは事実よ。でもね・・・・今は彼とは関わっていないの・・・・私も『猿飛 佐助』じゃ・・・・ないの。・・・・信じてください・・・・・風雅さん・・・・。でも・・・・おそらく・・・・先代佐助の遺志が・・・・・。」


 二代目佐助であった燐が放った言葉に風雅は驚かされた。そして彼は今回の事件に大きく関わる人物について知るのであった。