短編小説「初恋日記6」 | 照ママと猫日記

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~~~~~~~~母ちゃんと愛猫の可笑しな日々

「ハイ」と電子音が聞こえた


今の時代はAIが喋る声に慣れているが

これが、声を無くした人の声なのだ…

数秒、間を置いてから私は話しだした

N君?テルだよ…帰って来たんだネ

彼はしばし無言。電話かけた経緯を話し

逢いたい…逢いに行っていい?と聞いた


 イヤ コナクテモイイ 

イマハダレニモ アイタクナイ 


 電子音は冷たく感情がわからない

 今、会社だから 家に帰ったら

電話するネ〜と言って切った


有休が溜まっている 土日をたして

逢いに行く計画を密かに決めていた

遠いあの日、見送りもせずに変な

別れをした事 ずっと悔いていたのだ

謝りたかった。人生いろいろと

お互いあっただろうけど、今度は

私から 抱きしめてあげたかった


 私の強引な電話攻撃に、少しずつ

心が解きほぐれてきたようだ

大阪で居酒屋を経営して成功してた

結婚して子供が一人いるとか…

そのうち肺を患い 空気の良い奄美に

帰ろうと家族に相談したが繁栄してる

居酒屋を奥さんは手放したくなかった

仕方なく離婚を選び 1人帰って来た


 その頃は 肺炎治療だけだったから

島の同級生たちと カラオケと酒で

楽しんでいたが、ある日カラオケで

突然声が出なくなり 検査を受ける

 咽頭に腫瘍が見つかった。医師は

手術を勧めた 声を失うが命は助かる

医師の説得で 手術を選んだようだ


 いろいろ話が 弾むようになると

彼の心が開いてきた 君には手術前に

逢いたかった その言葉が嬉しかった

 奄美航路の船に乗り込み夕方6時出航…

翌朝4時に奄美市の港に着く…

迎えに来ている筈だ…30年経った2人

見つかるかな?と不安ながらタラップを

歩いていたら お互いすぐわかった…

外国並に人目もはばからず抱き合った

二人とも、もうスッカリ大人ですから

早朝4時の港はまだ暗い、薄暗い外灯が

二人を引き寄せてくれてロマンチックだ

今日から数日 彼の家でお世話になります

            ー6ー