フロム・ヘル | 毎日がメメント・モリ

毎日がメメント・モリ

映画レビュー、イラスト、好きなもの、日常。
ホラー映画メインですが、ほとんどの映画は美味しく拝見いたしております。
イラスト禁無断転載。

 

 

 スト-リ-そのものはさして新鮮なものはありません、切り裂きジャックの事件の数有る犯人説の中で、現在最も有力な説をほぼ忠実に再現したもので、ちょっと興味のある方なら、それくらいはご存じでしょう。
そこにジョニー・デップ演ずるアバーライン警部が絡んで来るのですが、これがまたあまりストーリーそのものには関係が無い、何たって肝心な時にはいつも殴られて気絶してるのだから、ヘタしたらギャグなんですが。
 この有力説と違う部分はこのアバーライン警部と娼婦メアリとのロマンスと、最後の犠牲者となったのが、実はメアリではなかったと言う事。

 

 


 思うに、これはストーリーを楽しむと言うよりは恐らく、監督自身は、この時代の「この雰囲気」が描きたかったのではないかと思います。移民が多く住んでいた貧民区イーストエンド、アンチ セミティムズ(反ユダヤ)、反カトリック、外国人に対する差別と偏見、アイルランド問題、アヘン、フリーメーソン、時代の二重性…殺人に魅せられていた時代「アナザーヴィクトリアン」。

 



 そういう視点で見ると、大変優れたセンスと映像美を持つ映画です。まず、街の風景の撮り方が素晴らしい、こういったセンスで本格的ゴシックホラーを撮ってくれたらと思います。薄暗い灰色の街、不穏な空の色切り裂かれた死体に群がる蠅、そして暗闇、精神病院で行われるロボトミー手術、これまたストーリーとは関係無く登場するエレファントマン。

 

 

 



この時代の持つ二重性の暗の部分をこれ程端正な映像美で、きっちりと捉え、単なるグロテスクで終わっていないのは見事。またジョニー・デップが、この退廃的な映像美にピタリとはまっている、彼の魅力はあの不思議な眼差しでしょう。

 

 

 女王に忠誠を尽くすために行っていたはずの殺人が、彼の心の闇を解放してしまったと言う事か。
「FROM HELL」とは、映画同様、実際に切り裂きジャックからの手紙に記されていた言葉です。
 だから、この時代に興味のある人には堪えられないだろうけど、そういう事に興味の無い人には物足りない映画かも。それか、見たいんだけどキツいものはダメって人には良いかもしれません、キツいのはキツいんだけど、脅かす様な演出は全くありませんから。
また、アバーライン警部の身を本気で案ずる部下ロビー・コルトレーン演ずるゴッドレイ巡査部長が泣ける。

 

 



■ジャック・ザ・リパー

「切り裂きジャック」の正体については、実に様々な説があります。私がざっと聞いただけでも、ポルトガル人の船員説、遠洋漁業関係者説、産婆説、強盗、詐欺、殺人等で死刑宣告されたフレデリック・ディーミング説、毒殺魔ジョージ・チャップマン説、先天性の殺人狂でラスプーチンの親友だったロシア人医師ペダチェンコ説、胸を病んだ貴族の医学生説、名門ラッセル家の者だと言う説代々名門の医師の家系に産まれた青年弁護士モンタギュー・ジョン・ドゥルーイット説、シャーロック・ホームズ説、etc
しかし、現在最も有力視されているのが「フロム ヘル」の題材に取られた「英国王室説」です。その本来の経緯(映画とは多少違いがある)は、こうです。当時の女王陛下の孫であるクラレンス公は、学友である画家のウォルター・シッカートと交際するうち、彼のモデルであった田舎娘アニー・クルーク(映画では、メアリー
・ケリ-の娼婦仲間と言う事になっている)と知り合い、彼女に恋した皇太子は、子供まで作ってしまう。これがただの田舎娘でなければ、世継ぎになるワケですが、どこの馬の骨ともわからない田舎娘の子供を王室に迎え入れるワケにはいかない、そこで、もみ消しが始まる。しかも、アニー・クルークはカトリック信者であった。
アイルランドのカトリック教徒にほとほと手を焼いていた矢先に、カトリック教徒の娘など言語同断、と言うのも理由の一つ。そこで女王陛下の命を受けたソールズベリ卿が、拉致の様なかたちで無理矢理2人を引き離す。気の毒にアニーは精神病院を転々とさせられ、1920年狂死した事になっています。(映画ではロボトミー手
術を受け、廃人同様になった)そこで、どうやって娼婦連続殺人に繋がったかと言えば、この事実を知っていたメアリー・ケリ-が、何とこのネタを持って王室にユスリをかけたんですね。ここで動き始めたのが、王室の侍医で、中絶等のダ-ティな仕事を引き受けていた、サー・ウィリアム・ガル。
当時、反カトリックを掲げていた英国王室はフリーメイソンの巣窟になっており、もちろんソールズベリもサー・ウィリアムもフリーメーソンであった。これについては、また他で語る事にします。(映画の中で、犯人の背後に見られる絵は、ウィリアム・ホガース画の「殺人の報酬」フリーメイソンの儀式を描いたものである)よって国家にとって危険分子となったメアリー・ケリ-殺害にフリーメイソンが動く。これを猟奇殺人犯の仕業に見せようと言うのはサー・ウィリアムの考えだったらしい。
これは1976年に発行されたナイトの「切り裂きジャックー最終的解決」の大筋ですがこれはナイトがシッカートの息子から聞き書きしたものです。みるところ、シッカート自身も加担したらしい気配があり、多くの謎を呼んだシッカートの作品は暗にこの事件の真相を語っているものだと考えれば非常に辻褄が合うんですね。
 何の変哲もない老人が葡萄を食べている絵「ラザロの朝食」(サー・ウィリアムは犠牲者にまず必ず葡萄を与えていた)、顔がグチグチャで目鼻も定かで無い顔の女の絵「ゆすり」、喉を掻き切られた女の傍らに老人が座っている「カムデン街の殺人」。
 

$cyber angelo-カムデン街の殺人

 


そして、「倦怠(アンニュイ)」と言う絵の中に描かれているエリザベス女王の肩にとまっているのはカモメ(ガル)です。シッカートは常々この絵に関して「切り裂きジャックの秘密を隠しているものだ。」と語っていたそうです。「フロム ヘル」にはシッカートは登場しないし、ここに書いた説とは違う点はいくつかあるものの、この説を下敷きに作られた事は恐らく間違いないでしょう。

 

 

 

$cyber angelo-倦怠(アンニュイ)

 

 


そして、タイトルも衝撃的な「切り裂きジャックの寝室」。

 

 

 

 

$cyber angelo-切り裂きジャックの寝室

 


また、パトリシア・コーンウェルが近年「切り裂きジャックはシッカートである。」説を著書「切り裂きジャック(原題:Portrait Of A Killer Jack The Ripper Case Closed)」を繰り広げています。


††アレン&アルバート・ヒューズ監督作品
フレッド・アバーライン/ジョニー・デップ
メアリー・ケリー/ヘザー・グラハム
ウィリアム・ガル/イアン・ホルム
ネットリー/ジェイソン・フレミング
ピーター・ゴッドレイ/ロビー・コルトレーン
†††2001年 アメリカ
********    ********



フロム・ヘル [DVD]/ジョニー・デップ,ヘザー・グラハム,イアン・ホルム

¥2,090
Amazon.co.jp

フロム・ヘル [Blu-ray]/ジョニー・デップ,ヘザー・グラハム,イアン・ホルム

¥2,500
Amazon.co.jp

フロム・ヘル 特別編 [DVD]/ジョニー・デップ,ヘザー・グラハム,イアン・ホルム

¥4,179
Amazon.co.jp