西麻布交差点から笄坂を少しのぼったところにある Indian Restaurant Nishiazabu by KENBOKKE。創業は1986年で、日本国内のインド料理専門レストランとしてはかなりの老舗になる。なので、古くからのインド料理好きの人なら誰でも知っている。元々の店名は「瞼暮帰(けんぼっけ)」だったが、2022年の末だったか2023年の初めだったかに現在の名前に変更。オーナーが現在の2代目の鈴木陽子さんに変わったのはもう8年位前で、そのタイミングでの店名変更なら分かるが、なぜそこから数年経ってから変えたのかについてはわからない。ちなみに「嶮暮帰」とは北海道にある島の名前であり、初代オーナーに所縁があるという。

 

数あるインド料理店の中でも特に注目すべきなのは、創業当初から現在に至るまで実に40年もの間、メインのシェフが交代していない点だ。料理長のサドゥラム・ラホトラさんはムンバイのタージマハルホテルの他、様々な国での勤務経験を経て、この瞼暮帰に勤務することになる。2番手・3番手のシェフは何度か変わっているが、ラホトラさんがずっといるおかげで、老舗の味はしっかり守られているわけである。

 

ということで、2026年08月31日(月)、ディナー・タイムに超久しぶりの訪問。この時は非インド料理界隈の人と。そう言えばこの店、数か月前に孤独のグルメに出ていたな。

 

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まずは食前に mango lassi (マンゴー・ピュレ入りヨーグルト・ドリンク)。かなり濃厚で、少し氷が溶けてくるとようやく「飲み物」になる感じ(笑)。同行者は歓喜していた。

 

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前菜は tandoori mix grill。もも肉の tandoori chicken、胸肉の chicken tikka、lamb seekh kabab (ラム挽肉の串焼き)。肉の他に zingudil buhar (海老のグリル) や desi salad (インド亜大陸風のシンプルな野菜サラダ) が付く。どれも美味しいが、特に chicken tikka が好みかな。

 

なお、zingudil buhar は恐らくヒンディー語の jhinga dil bahar の表記ゆれだと思われる。

 

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まずは海鮮から jhinga masala (海老のセミドライ・グレイヴィ)。具材としての海老をドーンと食べさせるのではなく、海老はあくまでもグレイヴィの一部。合わせた tandoori roti (窯焼き全粒粉生地フラット・ブレッド) との相性も良い。

 

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羊肉からは mutton rogan josh (赤い油をまとったマトン料理)。カシミール地方の有名な料理で、マトンの他ビーフを用いることもある。日本では相変わらずインド料理をすべて「カレー」と一括りする軽薄な風潮が続いてはいるが、本来は、この料理は日本人が「カレー」と認識するのに必要なスパイスや野菜を使わない。ただ実際にはいわゆる「カレー」寄りのレストラン・アレンジ・ヴァージョンも割とあって、この店も例外ではないのだが、料理名に違わずしっかり「赤い油」がきっちり目視できる。

 

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これが赤い油 rogan josh。ratan jot (アラカンナ) や mawal (鶏頭花) や辛味の少ない唐辛子に由来する赤色なので、実は見た目とは違って激辛料理などではない。油控えめでクリーミィリッチな rogan josh を出す店には天罰が下ればよい。

 

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そして鶏肉はこれ、chicken butter cream。これがまたバカ美味い。いわゆるバターチキンなのだが、この店は chicken butter cream の他に butter chicken と chicken tikka masala があり、勝手に「バタチキ三兄弟」と呼んでいる。butter chicken/murgh makhani を基準に考えると、この chicken butter cream はそこにクリームを増量してもっとマイルドにしたヴァージョンだ(←ちょっと正確さに欠けるか)。一方、chicken tikka masala は肉が必ず窯焼きの chicken tikka で、バターやギーよりもトマトが強めに効いているリッチ・ソースの料理だ(なので、似てはいるけれど正確にはバタチキとは違う)。3人以上で訪問して食べ比べやってみたいっすな。

 

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集合写真もご査収くださいまし。サラサラした料理がないところが潔くて返って好きだ。それを求めてここに来るからね。

 

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chicken butter cream のグレイヴィが余りそうだったため、急遽 cheese naan (チーズ入り発酵精製粉生地窯焼きフラット・ブレッド) を追加。チーズはモッツアレラ中心。食事の終盤にきて背徳の乳製品コンボをやらかしてしまう。予想通り、食べ終わる頃にはぐったりしている(笑)。良い子は真似しないでね的な…

 

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〆は masala chai (スパイス入りミルク・ティー) で。この店の masala chai のユニークなところは、マサラの種類を、オリジナルミックス、ジンジャー、グリーンカルダモン、シナモンの4種から選択できる点。さらにミルクを入れないブラックも指定できる。こういうヴァリエーションは中々お目にかかれないな。ということで、あまり尖らない(はずの)ジンジャーにした。

 

この日は、オーナーさんが不在で主にラホトラさんがホールを、そして2人の若いシェフが厨房を担当し、終始ゆったりとした時が流れていた。以前、初代オーナー時代に訪れた際、たまたまだったのかその時はラホトラさんのワンオペ?で、所狭しとものすごい速さで厨房と客席を行き来していて衝撃を受けたのを今でも覚えている。機敏さで言うと祖師ヶ谷大蔵のマハリンガムさんも凄まじいが、往年のラホトラさんも凄かったよ。

 

北インド宮廷料理を中心とした高級なレストラン料理は、最近の日本人のインド料理マニア界隈にはあまりウケが良くない。人気があるのは南インド料理とビリヤニ、そして各地域の素朴な家庭料理や大衆食堂の料理ばかりだ。

 

ラホトラさんには、そういう極端な界隈の流行り廃り等とは全く別の世界線で伝統的な宮廷料理を作り続けていてほしいな。

 

ごちそうさま。