メキシコ プエブラ州

2010年7月


最近の旅の記憶から書き留めようと思っていたけど、今日ほどメキシコを思い出す日はない。特に一面サボテンだらけだったプエブラ州の小さな村を訪れた旅を。もう10年は経っている。

旅といっても当時私はメキシコシティに住んでいたからそれは気軽な週末旅だった。日常の延長のような記憶だったからこそ、写真が残っていなければ思い出せなかったこともあった。
これはしっかり書き留めておかねばと思う。

ところでメキシコを思い出したのは、ノパルという食用サボテンが届いたからだ。

ノパルというのはウチワサボテンのこと。メキシコでは市場やスーパーで売っているとてもポピュラーな食材だ。
近くメキシコ料理を振る舞うことになり、大好きだったノパルを輸入できないかなあと調べていたら、なんと愛知県で栽培していた。喜び勇んで早速ネットで注文したのだ。


包丁で一つ一つトゲを削ぎ取った後、半分は塩をふって両面焼いたノパルステーキに、もう半分は賽の目に切ったノパルを湯がいてぬめりをとり、同じ大きさに切ったトマトとチーズ、みじん切りの玉ねぎ、パクチーと和え、レモン汁、オレガノ、オリーブ油、塩で味付けしてノパルのサラダにした。

たった一口でメキシコにワープできる。味覚の記憶はいつまでたっても新鮮だ。

メキシコに2年半ほど勤務してもう日本に帰国する直前だったと思う。思い出にと同僚が誘ってくれた。旅の目的地はプエブラ州の奥地にある村だ。サボテンの植生地としてその道では有名な場所らしく、世界のサボテンの種類の6割だか7割がそこにあるといっていたような気がする。しかも村の近くでは恐竜の足跡が発見されているらしい。当時少なくとも周りにいる日本人にはまだ知られていない穴場だった。

メキシコシティから車で4、5時間だったと思う。広い大地にまっすぐ伸びる道をひたすら走って走って走っていった。

プエブラ州に入ってしばらくすると、いい加減に見飽きてきた車窓の岩山に変化が起こっていることに気がついた。よく見るとなんか表面がツンツンしているのだ。よーく目をこらして見ると、ツンツンの正体は群生する背の高いサボテンだった。見渡す限りの丘を覆い尽くすほどのサボテンサボテンサボテン。
ああ目的地は近い!私は確信した。


そこからはサボテンの丘がどこまでも続いた。なんだかどこかで見たことあるなあ。ああそうだ野球部の男の子の坊主頭、あるいは休日のおじさんの無精髭(笑)?
当時ガタガタ道に揺られながらそんなことを思った記憶があるけれど、今この写真を見てもやっぱりそう思うから私の想像力に成長はないらしい。

その村は荒野に突然現れたようだった。

村人だというガイドを見つけまずは近くのサボテン植生地を案内してもらった。
ザ・サボテンといった形のものから、見たことないような個性的な形のサボテンまでそこかしこにたくさん生えていた。ここで転んだら大変だなと慎重に歩く。

「象の足」という名前のサボテンが印象的だった。その名の通り裾野の広がった幹が象の片足のような姿をしていた。このサボテンは僕たちにとって神様なんだよといって、ガイドのお兄ちゃんはそのサボテンに抱きついてキスをして見せた。


大きな樽型のサボテンにはかなり痛そうなトゲがびっしり生えていて頭のてっぺんに黄色い花が咲いていた。じーっと見ていたら、これはタネだよ、とれるよ、と言ってその黄色い部分をスポッと抜いて私にくれた。すごくびっくりしたけど、地元の人が触ってるんだから多分大丈夫と恐る恐る握ってみる。それはフワフワの綿のようで、ほぐすと中から黒い種がたくさん出てきた。


全く水気のない渓谷のようなところを延々と歩いていって、ひび割れた岩盤が剥き出しになっている場所に出た。そこに恐竜の足跡だという穴があった。ぬかるみに足を取られたようなちょっと崩れた丸い穴が点々と。
ここに恐竜が水を飲みに来ていたのではないかということだった。
水をたらふく飲んでちょっとつまづいて帰る恐竜。可愛い。

正確な年代は全く覚えていないけど、その昔ここは海の底で、その証拠に貝などの化石がたくさん出るらしい。特に囲いもなかったような気がする。本当にそこらへんにたくさん落ちていた。
まだ調査もよく進んでいないので保存活動もままならないという感じだった。メキシコにはまだこういうところがたくさんあるんだろうなあと思った。考古学はお金がかかるからね。
ここもこれから大切にされるといいなと思った。


その日は村で唯一の宿に宿泊。客は我々だけだった。
夜は特にすることもないので宿でのんびりした。庭に雌鳥1匹と孵化したばかりらしいヒヨコが10匹くらいいた。意外とすばしっこく走り羽虫を追いかけては食べる姿を見てたくましいなあと思った。

その晩、物音でふと目が覚めると外では大雨が降っていて、部屋のトタン屋根が雨でバタバタと激しく鳴っていた。
なんだか眠れなくなりトイレに行きたくなった。
トイレは部屋の外にあったので傘をさしていった。雨だったからもちろん星は見えなかったけど、晴れていたらどんなに星空が綺麗だったろうと、ほとんど明かりの見えない辺りを傘をさしながらひとしきり眺めていたのを思い出す。こんな大雨の中、昼間のヒヨコたちは無事だろうか。

翌朝雨はすっきり上がっていた。昨日飛んでた羽虫が大量に地面に落ちていて、宿のおじさんがホウキではいて山のように集めていた。おじさんの足元では相変わらずすばしっこいヒヨコたちが一心不乱にその羽虫をついばんでいた。たくましいなあ。

食堂で朝食を食べていると、村の若者らしき集団が軽トラみたいな車にワンサカ乗ってやってきて、宿の食堂の女の子に、迎えにきたぞと言っていた。どこに行くのかなと思ったら今日は選挙日なので投票に行くという。若者が大したものだなあと思った。

この村の名前は言わないでおこうと思う。