青梅街道をゆく ブロンプトンで柳沢峠越え(その15) | 旅はブロンプトンをつれて

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ブロンプトンを活用した旅の提案

ということで、ブロンプトンの特徴をフルに活かし、爽快ダウンヒルに移ります。
バスに乗って逆方向から登っているときには気が付かなかったのですが、途中に駐車場付きの富士山展望台がありました。
私はずっと上の方で同じ眺めを見てきましたから、全く止まる気はありませんでした。
そして走った実感として、トンネルやループ橋を多用しているからなのか、かつての青梅街道よりもずいぶんと坂道の傾斜が緩くなっている箇所が多くあり、これなら夏場の塩山駅を朝早くに出れば、今回よりも早く柳沢峠に到達でき、竹森林道に入れば雲に隠れる前の富士山を拝むこともできるのではないか、そんな風に思い、「今度は塩山側から登って奥多摩駅に降りてやろう、例のバスでのぼるよりも早い時間帯に」などと目論んでみるのでした。
なお、旧甲州街道の旅をしているので、中央本線の朝の時間帯の感覚はよく分かっています。

朝の3時ごろに起き出して、ブロンプトンで自宅から中央線三鷹駅まで(およそ1時間半)走ることができれば、三鷹駅4時40分発の始発で塩山駅到着は6時22分に、南武線登戸駅まで(同約45分)走って、4時39分発の始発に乗れば、6時52分に、家から20分もかからない武蔵中原駅4時43分発の始発に乗れば、7時22分に塩山駅に到着します。
柳沢峠へ午前中に登る山梨交通の路線バスは、塩山駅8時30分発で柳沢峠到着が9時30分1本ですから、3時間かけて自転車で登ることを考えると、三鷹駅発の始発に乗れば峠にはバスより早くに着く計算になりますが、今回も奥多摩湖最深部の鴨沢西バス停から25㎞の距離を標高差921mで3時間23分かかかり、標高412mの塩山駅から柳沢峠までは、距離は17.7㎞と今回の峠越えよりは短いものの、標高差は1,020mもあることを考えれば、前の日に塩山駅付近の旅人宿か、もしくは大菩薩峠登山口付近の山宿に宿泊し、朝の5時台に柳沢峠を目指して走り始める方が、時間的に余裕があることがわかります。


なお、自転車でのヒルクライムを趣味にしている方なら当然想像がつくと思いますが、塩山側から柳沢峠に登ることを成功させたら、次は当然に2024年現在、車道峠としては日本最高所にあたる、標高2,360mの大弛峠に挑戦したくなると思います。
塩山との標高差は2,000m近くになりますから、小径車であればこちらも前日までに乙女湖の上にある金峰山荘(同じ名前の宿が、同峠の長野県側の下にもあるので注意してください。大弛峠の長野県側は、自転車ならマウンテンバイクでないと登れない、未舗装の「めちゃ荒れた」路面の道です)まで詰めておいて、翌日早朝に峠に向ってのぼるのがもっとも実現可能と思われます。
また、大弛峠まで自転車を使って自分の足で登ったなら、そこが登山口なのですから、その次の機会には、大弛峠まで乗り合いタクシーなり、マイカー、あるいはオートバイでゆき、そこから標高2,599mの金峰山を目指したくなります。
以前、大弛峠まで乗り合いタクシーで登って、国師ヶ岳(標高2,592m)をハイキングで往復し、帰りはブロンプトンで塩山駅までダウンヒルした時は、下から登ってくるサイクリストを多く見かけましたし、大垂水小屋で食事をしたときに相席になってお話しした自転車で登ってきた方は、「とてもじゃないけれど、今日これから山登りする気にはなれない」と感想を漏らしていました。
だったら、何回かに分けて麓からの登山を敢行するなんて、ロマンのある話だなと思ったのです。


私は山屋さんじゃないけれど、エベレストやK2などに登る時は、いくつもベースキャンプを構えて登頂を果たす人はチームの一握りときいてるし、1回の遠征では登頂を果たせず、何度も挑戦して頂上を極めるなんて当たり前の世界だと思っています。
でも、こうして考えると、山の高みへ下から自分の足だけで段階を踏まえて登るということは、モータリゼーションの機動力を活かしたお手軽ハイキングがもてはやされる時代に対して、エコであり、かつウエルネスにもなるという、旧街道尺取虫方式の旅同様の、便利・速い、安直な旅に対するアンチテーゼになると思いました。
富士山だって、インバウンド客がよくやるような、五合目からの弾丸登山に対して、敢えて田子の浦付近の海岸から山頂を目指して歩きだす人もいると聞きます。
富士山の山頂に登ったという結果のみが欲しい人には、それこそ一番楽な方法で登ればいいわけですし、これからの時代、「仮想現実だけで構わない」なんて人が増えて行ったら、こうした「そもそもを楽しむ旅」のこと自体がナンセンスになる日が来るかもしれません。
しかし、そうした旅が、折りたたみ自転車を使うことによって心身に無理なく、楽しく、何度にも分けてできるというのなら、これこそがヘルス・ツーリズムの本質のような気がします。


柳沢峠からの下りは、そんなに飛ばした記憶はないのですが、塩山駅北口すぐそばの中華料理屋さんには11時45分には着いてしまいました。
すなわち、柳沢峠からここまで35分で下ってきた計算になります。
これは、マイカーで下ってきたのとほぼ変わらない所要時間です。
どうも、スピードをあげたというよりは、カーブでどれほど減速せずに下ったかという点の方が大事だったように思います。
(その点、オートバイならもっと速かったとは思いますが)
件のお店を覗くとまだそれほど人が入っていないので、カウンター席に座り、「早くできるメニューはどれですか」ときくと、チャーハンとの予想通りのお答えだったので、チャーハンを頼んで15分後には完食し、入れ替わりに入ってきたお客さんを尻目に、さっさと会計を済ませたら12時ちょうどでした。
あら、12時06分発高尾行きに余裕で間に合います。
これも、折りたたみ自転車なのにフレームがしっかりしている、ブロンプトンならではの芸当だと思います。


自転車は、もちろん徒歩よりも、路線バスよりも時間がかからず、かつ自由度が高いですし、折りたたみ自転車を活用して輪行すれば、旅程の自由度はさらに増しますから。
もちろん、私が早食いが得意という点もあるにはありますが。
この時間帯の電車であれば、まだハイカーは山の中を歩いていますし、観光客もこれからお昼を食べる時間でもあります。
もしも青春18きっぷの有効期間であったとしても、彼らも時間を有効に使うので、こんなに早く首都圏に戻る、中途半端な列車には乗りません。
そうすると、折りたたみ自転車を抱えている自分としては、もっとも座りやすい席に座って、高尾までの1時間ちょっとの時間を、空調の効いた車内で存分に眠って帰れるということになります。
つまり、早起きして早くに峠越えを済ませると、それだけ早くに食事も済ませて、帰路に就くことができるのです。


実はブロンプトンでの輪行を始めたころ、今回とは逆コースで奥多摩駅から帰った際、夕方近くになってしまい、立川駅で青梅線から南武線に乗り換える際、ちゃんと1本待って並んでいたにもかかわらず、たまたま折返し電車の自分が並んでいたドアから野球試合帰りの道具を大量に抱えた高校生たちの集団が、ワイワイ楽しそうに下車したためになかなか乗車することができず、手間取ってしまったのです。
その間にほかのドア口から突進したハイカーたちに、目の前の座席をすべて横取りされてしまい、立川から武蔵小杉までの40分以上を混雑した車内で立ちっぱなしにさせられた経験があります。
私だけでなく、私の横や後ろに並んでいた人たちも皆座れずじまいで、ほかのドアから入って走って座席を占拠した人たちを、半ば呆れた顔で見つめていました。
そうやって漁夫の利を得た人たちは、自分よりもずっと手前で下車したのに、「モタモタしているあなたたちが悪い」というふてぶてしい態度を乗車中にずっと崩しませんでした。
こんな不快な思いをするのだったら、青梅線で乗っていた列車が中央線直通の東京行き青梅特快だったので、立川で下車せずに新宿まで乗って、副都心線経由で帰った方がマシだった、この時間帯の南武線や横浜線には二度と乗りたくないと記憶しているのです。
旧甲州街道を巡って帰る時も、なるべく立川や八王子で乗り換える際に、まだ快速電車が走っている時間帯に戻れるよう、引き際を早目にするように心がけておりました。


今回はとくに、峠越えをして疲労困憊になっているはずだから、その反省を踏まえて旅程を組んでいます。
塩山駅北口には、甲府駅南口のそれとは趣がちょっと違う、信玄公の銅像が鎮座していますが、彼に見守られながら自転車をたたみ、高尾駅やその先の立川駅での乗り換えも考えた位置、すなわち列車の先頭部分に座ることができました。
また、ずっと水分補給しながらのぼり、昼食場所ではトイレに行く時間もなかったけれども、途中の四方津駅で特急あずさ号(甲府を出たら八王子まで停車しないので、今回は物理的に乗車できない列車)の通過待ちで6分間停車することを知っていたので、その際にゆっくりと用足しもできたことを報告しておきます。
これも、旧甲州街道、その先の千国街道をブロンプトンで巡り、或いは白馬にスキーに行くのに青春18きっぷを活用したりして、帰りに鈍行列車で何度も帰って来たときに身につけた知恵です。
おかげで乗り継ぎの中央線特別快速も、南武線の快速も、全部座れましたから、読書と居眠りを楽しみました。
そして帰ってからもゆっくり今日の出来事や反省を書き留めることができました。
こうしてブロンプトンをつれて電車に乗ることが多くなった自分は、以前よりもずっと鉄道旅について工夫することができるようになったと思います。


今回は多摩川を遡るというところから、青梅街道の柳沢峠をブロンプトンで越えたわけですが、やはり最初の一滴を見に、笠取山に登りたいという希望があります。
それから、高校生の時に歩いて越えたし、ブロンプトンを使っても山梨側から往復したけれど、旧青梅街道の大菩薩峠を、小菅林道を使うことによって、ブロンプトンを背負って越えてみたいと思いました。
日数もお金もかからないけれど、手軽に楽しめる冒険としての旅になりますし、前者なら一ノ瀬高原、後者なら小菅村に宿泊することができれば、地元の観光にお金を落とすことにもなります。
なによりも、ハイキングが趣味ではない私が山歩きしたくなるのですから、今回の青梅街道を走る旅は、より善い次なる旅への序章になったと感じます。
これからも、坂道を登る折りたたみ自転車の旅をご紹介してゆければと思います。
(おわり)