林道小菅線にブロンプトンをつれて(その6) | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

山梨県北都留郡小菅村の小菅林道にブロンプトンで入ってきた私は、林道の中間点にある白糸の滝を観瀑すべく、入口に自転車をとめて止めて山道へと入ってゆくことにしました。
入口でまず目についたのが「熊出没注意」の警告メッセージ。
北海道のヒグマよりは小さいツキノワグマなのは承知していますが、山のクマさんにはできればお会いしたくありません。
私はオフロードバイクで山に入ることがかつては多かったせいか、クマを含む野生動物に出会うことはそれほどたくさんありませんでした。
むしろ走行音がしない自転車に乗るようになってからの方が、見かける機会が多くなったような気がします。
今春の南会津での猿の集団もそうでしたし、以前志賀高原でパンクしている自転車を曳いていたら、国道脇の林にいたカモシカと目が合ったこともあります。
クマは一度だけ、中山道碓氷峠を歩いて越えている際に、熊笹のなかへと飛び込む毛むくじゃらのお尻だけを見たのですが、あれがクマなのかイノシシなのかは今をもって不明です。


そして入口の地面には、なにやら白い顆粒状の薬剤がまいてあります。
おそらくは野生動物から人間の靴裏を介して牛や豚などの家畜へ得体のしれないウィルスが感染するのを防ぐためと思われます。
ブロンプトンに乗り始めの頃、外来植物の種などが入るのを防止するため、林道の入口にタイヤを洗浄するためのプール(といっても水路を跨ぐだけ)が設けてあるのを見たことがあります。
若い頃は環境保護という観点からそこまで考えたことは無かったのですが、ふだん都会生活をしている人間が休日に山に入るということは、それだけ謙虚な気持ちを持たねばならないのかもしれません。
警告を読み、あらためて鈴が鳴るようにフロントバッグを襷がけにして白糸の滝へと向かいます。


入口で気の橋を渡り、本流の谷を背に、狭い支流の谷間に入ってゆきます。
左右から斜面が張り出した岩戸のような場所を抜けて振り返ると、日蔭の谷間の向こうに紅葉が陽に照らされて、影絵を見ているような気分になりました。
さらに登ってゆくと、左手に滝壺への直登する道をわけて、右奥に観瀑台が見えてきました。
まずはそこから滝を眺めることにします。
台に上ると、樹木の間正面に白糸の滝が見えました。
ここまで白糸の滝入口から5分程度です。
同じ名前の滝は全国にありますが、山梨県内ではここと富士吉田市、関東地方の人に有名なのは軽井沢にあるそれと静岡県富士宮市にある滝です。
どちらも幅が広くナイアガラ型とでもいいましょうか。
ただ、ここ小菅村の白糸の滝は高さ36mで水量は少ないといいながらも堂々としたものです。

音もサラサラというよりはザーザーで、その名の通り、離れた観瀑台からみると一条の白い糸のようです。


説明によると、この滝は、もとは今倉の滝とも言われていました。
地図を見ると駐車場手前、すなわち正面から滝をみて右手の山の中に登山道が通じており、尾根上をゆく丹波大菩薩道に接続しています。
接点の追分から北西すぐの場所にサカリ山(今倉山:1541.6m)がそびえており、白糸の滝はこの山の懐に包み込まれるように位置しています。
この滝には伝説があります。
むかしここの滝口には水の色さえ変わって見えるほどの渦巻く深い淵がありました。
あるとき力自慢の若者がこの淵に大きな石を沈めて帰ると、数日後に沈めた石は滝壺にきれいに並べてあり、村人たちはこの淵に住む龍の仕業に違いないと話していました。
ちょうど同じ頃、小菅村では日照りの干ばつに悩まされ、村人たちが法生寺の住職に相談しました。

僧侶はこの滝まで来て祈りながら経本を滝に投じたところ、一陣の風と共に淵から龍が姿を見せ、驚いている村人たちを尻目に川を駆け下って行ったそうな。
するとそれから小菅村は水不足に悩まされることも無くなったといいます。
龍の出現とともに雨が降るという話はあちこちでよく聞きます。
龍、蛇、河童などは水の神さまとして水源地に祀られ、そのような祠を水神社とか、水分神(みくまりのかみ)と呼んでいます。
農耕民族にとって干ばつや水害は生死に関わることですから、おろそかにできなかったのだと思います。

いったん戻って登り返し、こんどは滝壺までのぼってきました。
昨日や昨夜は雨が降っておらず、比較的乾燥している秋にしてはやはり水量が多いようです、
こうして寄りで滝を観察すると、自分が居る谷間は陽が陰っているのに、滝とそれに重なる色づいた樹々だけが太陽に照らされ、下には滝飛沫による虹を従えているので、薄暗い谷間にいる人間が客席、滝がスポットライトを浴びて輝く舞台女優のようでもあります。
ここが紅葉の名所として知られているのも納得です。
それにまだ8時半をまわったばかりだからなのか、周囲には誰もおらず、ただ滝の音を聴きながらひとりマイナスイオンを浴びてぼんやりできるということで、次回は折り畳み椅子を持ってきて、しばし読書したい気持ちになりました。

暖炉のそばで読書するのも贅沢だと思いますが、滝壺での読書は健康に良さそうです。

ゆっくりしたいところですが、今日は林道を走りに来ているのであって、まだ先があるので早々に立ち去ります。
駐輪した滝入口まで戻ってトータル10分ほどの見学でした。
またブロンプトンに跨って山奥へと向かいます。
暫くは緩い登りが続いたのですが、だんだん道の傾斜がきつくなり、ほぼ直線の登り坂をゼイゼイと息を切らせつつ急登したさき、赤沢という沢が右へ分かれるところで林道がほぼ180度のカーブにて向きを変えます。
ここが大菩薩峠への道、小菅大菩薩道の赤沢登山口です。
白糸の滝入口から距離860mで10分ほどですが、標高は904.8mで小菅村駐在所前(標高661m)から、243.8mも登ってきた計算になります。
ハイキングのコースタイムでは小菅村役場から歩きでここまで2時間と表示されていましたが、自転車では半分の1時間でした。
小径車を使った未舗装路の登りでも、山道でなく車道である限り、歩くよりはずっと時間がかからないようです。
標識脇には「ここは水道水源林です」とあり、ゴミ捨て、焚火、植物の伐採や盗掘、オートバイの登山道乗り入れが禁止されている旨明示されていました。
多摩川源流の東京都水源涵養林ですから、大切にされているのでしょう。
とくにここからの山道は旧青梅街道ですから、昔は自転車を押し歩きして越える人もいたし、バイクブームの時はトライアル車で峠を越えようとした人がいたのかもしれません。

ここでちょっとブロンプトンをかついで大菩薩峠へ登ることも想像してみました。
大菩薩峠の標高が1,900mですから、ここからさらに距離6㎞、標高差1,000mを登山道で登る計算になります。
登山口から丹波大菩薩道の走る尾根筋の合流点、フルコンバ小屋跡まで1時間40分。
そこから大菩薩峠までさらに40分、計2時間20分ほどの登りになります。
今の時刻が8時50分ですから、このまま登山道に突入して休憩なしで登ってゆけば、11時10分には大菩薩峠に到着する計算になります。
そこから上日川峠まで押し歩きで下ったとして1時間、そこでブロンプトンを展開して中央本線甲斐大和駅まで舗装路をゆるゆる下って1時間と、お昼ご飯を食べたとしても14時には駅に着けそうです。

いや、あわよくば13時台の列車で帰れるかもしれません。
すると高尾には鈍行で14時半、武蔵小杉迄戻っても15時半と、余裕で日没前に帰宅できます。


きっぷは「のんびりホリデーSUICAパス(2670円)を朝に購入しているので、甲斐大和~大月間(330円)だけ買い足せばOKです。
すると、ブロンプトンで林道アタックしたうえに、旧青梅街道峠越えの山歩きもできて、交通費は3000円ポッキリという、運動効率の高いブロンプトンを使った山旅ができてしまいます。
しかし、12㎏あるブロンプトンを背負い6㎞の道のりで1000m近くの高度を稼ぐとなると、2時間20分の道のりが、下手をうつと3時間にも3時間半にも膨らみそうです。
それに、12月に入ると標高1900mの大菩薩峠は雪が積もることもあり、防寒対策はもちろんのこと、登山道では軽アイゼンや非常食が必要になるかもしれません。
さればますます荷は重くなり、歩く速度も遅くなるはずです。
今日は背負子も持ってきていないし、いくら朝早いからといって殆ど登山装備も無い素人が、晩秋に標高2000m近くある峠越えを押し歩きでするのは無謀すぎます。
年を改めて、秋であれば日が長い10月に挑戦してみようかな、その頃はまだ紅葉がはじまっていないかもしれないけれども、などと考えて赤沢登山口をあとに舗装されている林道の方を登ってゆきます。
木の札で小さく「雄滝まで800m」とあったので、そこまでできるだけ押し歩きせず、ブロンプトンに乗って登ることにしました。


赤沢登山口から先、小菅林道はつづら折りになります。
直線で登るよりは、こちらの方がまだ楽です。
しかし相当汗をかいているのか、身体から湯気が立ち昇り始めました。
こんな山奥の谷間にも蛇篭(金網上の立方体に石を詰め込んだ護岸用ブロック)が積まれて崩落した沢が補修されています。
こうした工事のために林道があることを理解する一方、所々に観光客が捨てたペットボトルが転がっているので、走行に支障にならない範囲で拾ってゆきます。
車で気軽に山へ入ってくるからこんな行為ができるのでしょう。
ここまで自分の足で登ってきている労力を考えると、こんな山奥でゴミを捨てるなんて回収にも手間と費用が掛かると感じるので、私は絶対にできません。

自動車産業の人たちには悪いけれど、やはり車は人を傲慢かつ鈍感にする乗り物だと思ってしまいます。

(車に乗る人間の問題で、車そのものは悪くないのは重々承知しています)
赤沢登山口から600m登るとトイレのある駐車場が右にあり、そこからさらに190m登ったところが雄滝(おたき)入口です。

ここの標高は976.3m、小菅村駐在所との標高差は315.3mです。
なかなか林道では標高1000m地点に到達しません。
舗装路はまだ先へ続いていますが、今回は運動+滝巡りにしようと思い、またもやブロンプトンを停めて滝への道を登ることにしました。
次回は雄滝をご紹介し、林道の終点までがんばってブロンプトンで詰めてみたいと思います。