自己を見つめる旅―旅における恩寵と勇気、そして賢明さ(その1) | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

(今回と次回は本文と写真は関係ありません)

ある列車本数が少ない地方都市で宿泊したときのこと。
ブロンプトンをつれて旅をするようになってからというもの、天候の問題がない限り、駅前のホテルや旅館に宿泊する必要はなくなりました。
ブロンプトンがあれば、10分もあればゆっくりでも1㎞の距離を移動できます。
もともと、駅前の旅館はその利便性ゆえにサービスを簡素化し、部屋も狭く設定し、その分宿泊料を下げてリーズナブルをアピールするか、駅から近いことを利点として比較的高い宿泊料をとるかのどちらかです。
その点、駅から1㎞以上離れている宿泊施設は、鉄道利用者にとっては駅からバスやタクシーを使って往復しなければならず、その分宿泊代金を安くするか、駅前ホテルより設備を良くして同じ価格に設定する、料理を豪華にするなど、対抗策を講じなければ競争できません。
たった1㎞でも、大荷物をもって徒歩で移動するのは大変ですから。


しかしブロンプトンがあれば、駅と宿泊施設の間は数キロ程度でもなんとかなります。
たとえ雨が降ったとしても、その時はタクシーを呼んでもらえば良いのです。
私のように、素泊まりか朝食付きしか予約しない場合、自転車で街を走りながら、食事場所を探します。
食堂も駅から離れて、国道沿いでもないような住宅街の中に、そこに住んでいる人たちに愛される店があるからです。
また、初めて来た街の場合、自転車で走ることによって街の概要がつかめます。
中小都市の場合、ホテルに荷物を置いて30分もお散歩すれば、外周を囲むように走ることができます。
地図を見ながら、川の流れ方などで地形的な部分を、旧街道がどのように通過し、官公庁や文教地区、名所や旧跡がどこになるかで街の成り立ち含め、どこに何があるのかを把握できます。
これがもし、夜遅く到着して駅前に泊り、翌朝早くに出立したら、その街の様子は殆どわかりません。


その時は、とある地方の駅から6~7分ほどブロンプトンで走れば行ける、海岸に建つホテルに宿を定めました。
近くに朝食を取れる場所も無さそうなので、予約の際は朝食付を指定しておきました。
いつものように5時起きして、ブロンプトンで街の中を散策した後、7時前には戻って、ホテルの食堂で朝一番の時間帯で朝食を取りました。
一部ビュッフェ形式でしたが、けっこう混雑しており、殆どの人が、急いで朝食を食べていました。
そこで気付くべきでした。
こういう状態の時、皆が同じサイクルで動こうとするため、トイレはもちろん、チェックアウトのフロントも混雑するということを。
それから30分ほどの時間で荷物をまとめ、身支度を整え、乗る予定の列車が出発する25分前に部屋を出ました。
入口に置いていたブロンプトンを曳きながら階下に降りてゆくと、フロント前には服装からゴルフ仲間と思しき高齢男性が8人ほど集まっております。


そのうちの一人がフロント係と何やら揉めています。
「個別会計とお願いしたのに何でこんなに高いの?」
「昨夜夕食を召しあがった際に注文された飲み物がのっていますので」
「全部?それも割り勘で計算してよ」
「すいません、もう一度カードを戻していただけますか?一度清算してしまっているので、キャンセルしてもう一度最初からやり直しますので」
(私の方をチラッと横目で見ながら)「これから皆が個別会計するのだから早くしてよ」
「はい、しかしお客様、飲み物代の合計は○○円で、お客様の人数では割り切れないのですが、如何いたしましょう」
こんなやり取りが続き、一人目の会計が終わるのに10分近くかかってしまいました。
私が腕時計を気にしながら待っていると、残りの人たちが「このお兄さん急いでいるみたいだから先に会計してあげて」といって、順番を譲ってくれました。


私は鍵だけ返し、10秒ほど待って「はい、ありがとうございました。」と言われて、そのまま譲ってくれた人たちにお礼を述べて、正面玄関前でブロンプトンを展開し、荷物を背負って駅に向かいます。
あと15分を切っていますが、駅まで急げば6分くらいですから間に合うでしょう。
実は私は朝の散歩から帰ってきたとき、チェックアウトを済ませていたのです。
今回はカード決済だから、追加の食べ物やサービスを頼んでいない場合は、フロント係にパソコンのキーボードを叩いて確認してもらえばそれで終わりです。
これは添乗員をやったことのある人ならご存知でしょうが、団体旅行の場合は出発の日の朝、前もって清算をしておくのが普通です。
出発直前は、バスへの荷物の積み込みや、お客さんの頭数や顔色を確認したり、乗務員と打ち合わせしたりと色々ありますから、先にチェックアウトをしておいて、鍵だけ最後に返すようにするのです。


個人旅行の場合も、フロントが混雑する前に宿泊料やその他を支払っておき、チェックアウト時間ギリギリに部屋を出る旨あらかじめ伝えておけば何の問題もありません。
逆に、明日は朝が早いからと前の晩に清算しておき、キーボックスに部屋の鍵を入れて出てゆくということも、とくに登山をするような人たちはします。
それにしても、今回は順番を先にしてもらったことで事なきを得ました。
駅に行ったら通勤・通学客でホームは混雑しており、この辺りの列車は長くて4両編成なのを知っていたから少し心配したのですが、幸い逆方向の列車が混雑しており、対向できた私の乗る列車はガラガラでした。
このように、どこで泊まるかを決める際、翌日の朝の列車のことを考え、始発駅近くに宿を取った方が有利であることは、このブログで何度も説明した通りです。


その後、第三セクターの列車に乗ったのですが、こちらはたったの1両編成。
地方のバス同様に、列車(よく考えたら列車ではない)の進行にあわせて動いてゆく料金表と、運転手の脇に料金箱。
ということは、後ろのドアから乗って整理券をとり、無人駅で下車する際は運転手に整理券と運賃を支払って降りるタイプです。
こういう乗り物、列車ではなくレールバスと呼ぶのが正しいのでしょう。
駅のホームで待っていたら、定刻通りに来たので気にならなかったのですが、中にママチャリが1台どんと乗っているのには驚きました。
地方の鉄道では、サイクルトレインといっても、このように生活道具としての自転車を持ち込んでいる人もよく見ます。
持ち主のお爺さんが、「それ、いくらするの?」とブロンプトンを指して訊いてきます。
きっと便利そうに見えるのでしょうね。


と、そこまでは良かったのです。
自転車でまとまった距離を走ったあとだったのでついウトウトしていたら、降りる予定のひとつ前の駅で停車しています。
運転手さんが下車しようとするお客さんとなにやら揉めています。
「すいません、ここ第三セクターだから、JRのICカードは使えないのですよ」
「じゃあどうしたら良いの?」
「小銭もっていませんか?」
「生憎ないんだよね」といって高額紙幣を出す。
「すみません、両替はできないのですよ」
「困ったな…」
こんなやり取りをしながらどんどん時間は過ぎてゆきます。
私は次の駅で下車して、もっと過疎のローカル線に乗り換えるつもりなのですが、乗り継ぎ時間が3分しかないので気が気ではありません。
その列車を逃すと次の列車は3時間後で、その先の乗り継ぎがまた1時間開いてしまいます。
つまり、3分乗り継ぎの列車に乗り遅れると、目的地への到着時間が4時間以上遅れてしまうのです。
これは、地方のローカル線を乗り継ぐ際にはよくあることです。


運転手さん「じゃぁこの紙をもって、後日駅で支払ってください。」
「わかりました」
これ、日本だからできることだと思います。
やれやれ、乗り継ぎ時間1分になってしまったけれど、間に合いそうだと思ったら…。
「ところで、今度から無人駅で乗る時に大きなお札しかない場合、どうしたら良いわけ?」
「予め小銭をご用意ください。」
「でも駅の近くにコンビニなどが無くてくずせない」
「家を出るときに小銭を用意してください」
「家の周りにもお店がないんだよね」
「家のどこかに小銭を置いておくようにしたらいかがですか」
「あー自分忘れっぽいからすぐどこに置いたか忘れてしまうんだよね、あっはっは」
列車に乗っている人たちがみな注視する中、そのお客さんは会話をやめようとはしません。
運転手さんとの会話は和やかなのですが、だんだん私も含めて車内のお客さんたちがイライラしはじめました。
『あなたはここで降りるから良いけれど、次の駅で乗り換える私たちの身にもなってくれよ』
『列車はあなたひとりの占有物ではないのだから、場の空気を読めよ』
漸く彼がホームに降りてドアが閉まった時点で残り1分、
これは乗り継ぎを諦めないといけないかもと、覚悟を決めました。
(次回に続く)