旧街道にもってゆく地図(その2) | 旅はブロンプトンをつれて

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ブロンプトンを活用した旅の提案

(その1からのつづき)
道路地図をコピーしても、詳細図が無ければ旧道を正確に辿れない、しかし名所旧跡が示されている地図は縮尺が大き(大まか)過ぎて旧道が分からないというジレンマに打破の兆しがみえたのは、「決定版東海道五十三次ガイド」(東海道ネットワークの会21著 2005年 
講談社α文庫)出た時でした。
この本は1996年に日本橋から三条大橋まで全ての旧東海道を歩いて集めた情報をもとに、東海道制定400周年にあたる2001年に大幅改定された書籍で、地図に旧道全線がプロットされたうえで周囲の史跡、寺社仏閣が載っているはじめての地図でした。
しかし、「決定版…」を謳いながらそうはならなかったのは、本文中の地図の縮尺が相当大きかったからです。
おそらくは旧道の両側に散在する史跡を網羅しようとしたのでしょうが、概略は分かっても詳細が分からないと旧道を正確に辿れないうえに、肝心の史跡が途中どこにあるのかわからず、地図を見ながら行きつ、戻りつ探すというケースが頻発しました。
小さい石碑など、最後まで見つけられずに諦めて先を急ぐために端折ることも増えました。
それらを防止するため、結局道路詳細地図コピーも携帯して歩く羽目になり、荷物が余計に増えたのでした。
500㎞以上ある旧東海道を地図付きで1冊の文庫本に収めるのは、少々無理がたたったのかもしれません。
それでも、旧道地図と史跡案内が一緒になったはじめての小型ガイドブックということで、エポックメイキングな書籍だったと思います。

(江戸時代のガイドブック、名所図会)
次にあらわれたのが、2012年の暮れに刊行された、「ホントに歩く東海道<第1集>日本橋~保土ヶ谷ウォークマップ」(風人社)でした。
これは、B6判の蛇腹に折りたたまれた横長の地図が小冊子になって幾冊もの束になっています。
元図は1万分の1の詳細図に旧道が正確に記載されており、そこに交差点、道路名称、駅名、建物名、史跡、石造物までが記入されていて、さらに要所の写真や解説まで載っていて、ほかに全体の中のどの部分なのかという概略図もあり、これぞ旧街道マニア向けの地図だと思います。
但し、表題をご覧いただければわかる通り、詳細に記録されている分、1冊あたりの区間がどうしても短くなります。
2012年12月を皮切りに、3~6カ月毎のペースで西へ西へと増刊されていった本シリーズ、佐屋街道も含めて京都まで全18集で、すべてが発行されたのは2017年5月と足掛け約5年の大作です。
(現在は、中山道が京都からはじまって八幡宿=佐久市内望月宿と塩名田宿の間まで刊行されています)
1冊につき1,000円チョットと安価ではありますが、全部そろえると東海道だけで2万円近くゆくわけで、どうしても割高になってしまうのはボリュームからして仕方ありません。
また、対象区間が短い分、ブロンプトンでまたがって走る場合は複数冊を携行せねばなりません。
たとえば、日本橋から箱根関所までだったら、3冊持ってゆかねばなりません。
そして、中に入っている小冊子の束の1つでも紛失したら、地図がつながらなくなってしまうので、そういう意味では携帯向きではないかもしれません。
ただ、こちらの地図の良いところは、時代を違えた街道も記録されていて、さらに姫街道や佐屋街道、さらには美濃路(東海道の宮と中山道の垂井を結ぶ濃尾平野の古道)といった脇往還まで刊行されているところです。
それに記述も詳細なので、読み物としても面白いと思います。
作者は全部歩いて取材しているようで、さながら現代の広重さんといったところでしょうか。

(ホントに歩くシリーズ。これは美濃路)
「ホントに歩く…」の翌年(2013年4月)に登場したのが、山歩きをする人にはお馴染みの、山と渓谷社(通称ヤマケイ)から刊行された「ちゃんと歩ける東海道五十三次 東 江戸日本橋-袋井宿」「同西袋井宿-京都三条大橋」でした。
こちらは2万5千分の1地図を利用しているものの、定規をあてると3㎝=500m(そのままなら3㎝=750m)になっているので、縮小されているようです。
記述は最低限ながら、細かなポイント、名所旧跡や石碑などもすべて地図上に網羅されています。
写真や長文の解説はついておりません。
1冊税別で3000円なので、2冊揃えて6000円ちょっとと、上記「ホントに歩く…」よりお財布には優しいのでした。
ただ、こちらはもっと小さなA6判の蛇腹形式になっており、しかも全部一枚の紙としてつながっているために、裏表合わせて伸ばすと15mの長さにもなります。
当然、歩いている最中で該当箇所だけ見ようとして誤ってばらしてしまうと、元に戻すのが大変です。
私は不用意に開かないよう輪ゴムで閉じて使っていましたが、それでもうっかり落としてしまうと道端で収拾がつかなくなりました。

この点が不評だったらしく、翌2014年12月には新書版の書籍形式になって再登場しました。
その後「中山道六十九次」「甲州街道(甲州道中四十四次)」「熊野古道」「奥州街道・日光街道」「善光寺街道・伊勢参宮道」と増刊してゆき、現在の「ちゃんと歩ける東海道」には、東編には姫街道が、西編には佐屋街道が付属しています。
わたしが歩いたとき、佐屋街道の区間は七里の渡し、つまり宮(桑名)の渡しとして船に乗るから近鉄線や関西本線でワープしてしまう人が多かったのですが、今はこうして地図が出たことで日本橋から三条大橋まで気軽にひと筆で挑戦できるようになって、喜ばしい限りです。
(佐屋街道も、佐屋宿~桑名宿の間は三里の渡しといって、川舟を利用していましたから厳密には同じ道を辿れませんが、それでも自分の脚で歩き続け、或いはペダルを漕ぎ続けてゴールへ到達することに意味があると思います)
また、私はまだ走破していませんが、天竜川西岸から浜名湖の北を通り、吉田宿や御油宿へ抜ける姫街道(本坂道)は、最近武田信玄について本を読んでいたら、二俣城や三方ヶ原など、戦国時代は徳川家康と武田信玄の衝突の場であり、三州街道とあわせてぜひ一度訪れてみたいのでした。

なお、2012年には地図は古いままですが、「その1」でご紹介した「今昔東海道独案内<東編>日本橋より浜松へ」と「同<西編>浜松より京都へ・伊勢参宮街道」の2冊が、ちくま学芸文庫として再刊されています。
地図は古いままですが、ポケットに入る文庫本になったことで、携行しやすくなりました。
この本には、著者の今井金吾さんがたどった80年代後半から90年代にかけての街道の変わりゆく姿が文章になっていますし、そんなにたくさんではありませんが、取材時の白黒写真、それに江戸時代の図会(ガイドブック)からの転載も載っていて、読み物としては充実していると思います。
最初にご紹介した通り、その後の詳細地図のついたガイドブックは皆この本が種になっていますので、旅をしながら昭和の東海道に思いを馳せるのも想像しやすく、また地方では特に現在もその面影を残している場所があって、楽しいと思います。

(ナイストリップって、会社の商品名だったのですが…)
改めて、グーグルマップをはじめとするデジタルコンテンツについて書きますが、こうした地図は、正確にたどるには役に立つかもしれませんが、ガイドとしての機能は期待できないものが殆どです。
やはり、現地に行ってみる地図としては、紙の地図に情報がプロットされているものが一番使いやすいと思います。
デジタルデータをGPS機能付きのナビやスマホにダウンロードして利用する際には、一日中走るのに電源をどう確保するのかという問題がありますが、これはモバイルバッテリーを2つも持ってゆき、フロントバッグからUSBでつなげば何とかなります。
それよりも、前述したように凝視したまま走らない、操作は必ず停まって行うなど、安全面での配慮が特に必要です。
そして、読み物としての価値は書籍の方に軍配があがると思うので、あくまでも実走時の予備情報データと割り切るべきでしょう。
その証拠に、いくらネット上にある旧街道の地図を眺めても、紙の地図ほど面白くはないし、あれこれこれからゆく土地について想像を巡らせることも僅かです。
経験が無いから推論でしかありませんが、電子ブックと紙の本の差も似たようなものではないかと思います。
電子データというのは、のっぺりしていて、深読みしたり、背景を考えたりするのには向いていないのかもしれません。
たとえば、電子辞書を引くときと、紙の辞書を引くときの内容把握に差が出ませんか?
わたしは面倒くさくても紙の辞書を引いた方が、単語解説の隅々まで読むし、周辺の別語にも目がゆきやすくなります。
電子辞書ではそこまで読まず、意味さえ掴めばパッと電源を落としてしまいます。

(東海道から少し外れているこの白鳥古墳も、「ホントに歩く」シリーズには書き込まれています)
最後に、これら紙の地図、書籍形式の地図は、旅にもってゆく、ゆかないは別にしても、今後何度も街道へゆく際に役に立ちますので、経済力に合わせて購入した方が良いと思います。
おすすめは、バランスの良いヤマケイの「ちゃんと歩ける」シリーズです。
そして、幾度も街道を踏破・走破してマニアになってきたら、「ホントに歩ける」シリーズを購入したらよいのではないでしょうか。
通しで歩いて以来、ブロンプトンを使って行ったのは都合2回で合計3回になりますが、すべて尺取虫方式ですから、一度も通しで旅したことはありません。
仮に通しでゆくとしたら、自転車なら9~12日、歩きなら二十数日かかると思いますが、そのような旅の中には荒天の日もあるでしょう。
しかし、雨の日に合羽を羽織って走り、或いは傘をさして歩くなりして通しで移動してみないと、往時の旅人の気分にはなれないのではないかとも思います。
(歩いたときには何度が降雨を経験し、それもまた良い旅の思い出になっています。)
そして、旧街道は何度歩いても新しい発見が必ずあります。
かくいう私も、旧東海道について私的な思いも含めてずいぶん長々とブログに書いて参りましたが、まだまだ分からないこと、知らないこと、気が付いていないことだらけだと思っています。
観光バスやマイカーの旅は「点」、歩き旅は「細い線」だとしたら、ブロンプトンなど自転車による旅は、「太い線から面へと移行できる旅」だと思います。
わたしも甲州街道に手を出しながら、これからも旧東海道に行こうと思っているので、街道上で地図を覗き込んでいる姿をこのブログの読者さんが見かけたら、ぜひ声をかけてください。
(おわり)