異邦人 13
一週間の経過を診て
猫の病状は回復をみた
赤かった患部は次第に地肌の色を取り戻し
白い産毛も生えはじめた
もう大丈夫だろうと
エリザベス カラーを外した
途端に元気を取り戻し
今までフケが
これは馬の表現か
発情期が来ていたが
それと同時におさまってしまった
その週の日曜に
また 動物病院に連れてった
猫は
病院が嫌いなのか
これは飼い主に似たかも
表に出るのが怖いのか
興奮気味で落ち着きがない
さて
動物病院に着くと
日曜はいつもより患者が多くて
周囲からは猫 犬の鳴き声が入り乱れていた
ウチの猫は
それに怯えているのか
膝の上にうずくまって震えている
生まれて間もなくウチに来て
外の世界をあまり知らないこの猫には
やはり
恐れの方が先に立つのだろう
猫の好きな頬撫でをしてあげても
一向に震えは止まらない
「大丈夫だよ」
「大丈夫だよ」
と言っても
猫にはわかるはずもなく
診察室から出てきた一人のご婦人が
「何歳なんですか?」
と問いかけてきた
「1歳とちょっとなんですけど」
そう 私は答えた
ご婦人はケージの中を示し
「この仔も猫ちゃんなんですけど ウチにいるもう一匹の仔にそっくりで」
まあ
どこにでもいるキジトラ模様なので
飼っている私でさえ表を歩いている猫と
ウチの猫を見間違うこともある
「そうなんですか」
と社交辞令で答えたが
すぐに
ウチの猫の名前が呼ばれた
ご婦人に軽く会釈をして診察室に入ると
猫は
途端に威嚇をはじめた
「シャーーーッ」
という猫特有の威嚇を
だれかれかまわず醸す
せっかく取れたエリザベス カラーをまたはめられ
診察を受けるハメになった
異邦人 12
動物病院に着いて
人の良さそうな男の人が出てきた
院長さんだった
初めに問診票のようなものを書かされて
猫の名前を書く欄があり
一瞬 迷った
そういえば
猫の名前をまともに呼んだことがない
母は
とらちゃん
と呼ぶが
私はといえば
にゃんにゃん
とか
にゃにゃ子
とか
いつも適当な名前出て呼んでいるので
まともな名前が浮かんでこなかった
元はと言えば
母のために飼った猫なので
素直に
「とら」
と書いた
診察台に乗せられて
赤くなった患部の周りを先生がきれいに消毒をしてくれた
母は
赤くなった患部に
オロナインを塗ったらしい
子供の頃は
何でも傷口にはオロナインか赤チンを塗った食ったものだが
猫にはどうしたものか
案の定
オロナインは
猫には良くないらしい
丁寧にオロナインを拭き取ってもらい
傷口の検査をすると
どうやら何かの菌が悪さをしたらしい
悪性のものではないことを聞いて一安心した
動物用の軟膏のような薬をもらって
1日一回塗布して様子を見て下さいと先生は言った
ただし
舐めたりすると薬が剥がれるばかりではなく
体内に入るのは毒なので
ラッパを首に付けられた
ちょうど
エリザベス女王のえりまきみたいな
異邦人 11
猫は
きまぐれと言うけれど
私にしては
当たり前のことと思う
きまぐれで
服を買ったり
猫を飼ったりする私たちと
何の変わりがあるというのだ
猫は
人より
はるかに忠実な生き物である
もらってきたばかりの時には
警戒心が強く
家の中で放すと
母のベッドの下にもぐりこんで
出てこようとしなかった
私は
ベッドの下の隙間に手を入れて
やっと
猫の喉笛を触った
猫も
これ以上
自分の領域が侵されることがないと思い
抵抗することなく
首筋を私に触らせてくれた
そのうち
気持ち良さそうに喉を鳴らして
小一時間ほど そんなことをしていただろうか
私も
猫も
眠ってしまった
起きたのは
夕刻の頃
5月の
優しい風が窓から吹き込んで
私と
猫は
一緒にいた
・・・
飼い始めてから一年が過ぎて
猫の背中に
異変を見つけた
背中の一部に
赤くなって
毛が抜け落ちてしまっている
この一年
病気らしい病気もせずに過ごしてきただけに
ショックだった
すぐさま近くの動物病院を検索して
小さな身体を抱きしめて
病院に向かった
母も
心配だろうが
今日は母も病院に行く日だった
いつも妹が母を
病院に連れて行ってくれるので
そっちは任せて
私が
猫を連れていった
ちょうど
私は
首の骨がズレていて
病院に行く日だったのだが
目の前の
猫の病状に我を忘れていた
普段おもてに出していないからか
車やバイクの音に怯えて
私の腕にしがみつく
必死に生きようとしている
「大丈夫だょ」
としか言いようがない私が
情け無い
どうか
どうか
「大丈夫」であって欲しいと
ただ
それだけ




