『雨蛙』
むかし、カエルを題材にした小説を書いたことがある。二十代の頃だ。
予備校に通っていたころ、純文学のすばらしさに心が打たれ、様々な作家の文体に目が奪われた。
心理と情景が頭の中を駆け巡り、いつかは書けるようになるだろうか、と思ったのである。
そして学生になりその時に走り書きした文章を集めて推敲した。
内容は釣りにいった少年が、目的の川に行く途中の出来事を綴ったものである。その中で、橋の欄干から竿を振り出し、池にもならぬ水溜りに仕掛けを投げ入れたことが書いてある。
その仕掛けがチャプチャプと音を立てると、ガマの間から大きな音を立てて近づくものがいた。
ウシガエルである。
彼等はそうした物音に敏感で、何か違和感のある連続音があるとたちまち集まってくる習性があった。少年はその習性を知っていて、その水溜りであれば必ずやってくるとわかっていたようであった。
そして、少年の竿がしなる。
外野でやんややんやいう友達に、自分の感のよさと腕前を披露すべく懸命にリールを巻き上げた。普段は特技のない彼も、このときばかりは、いや、これから行く釣り場での活躍を予見させる演出を狙った行動は自慢に値するものであった。
程なくして一匹の大きなカエルが釣り上げられた。
針を外そうとするが、友達が面白がって、もう一度橋の下へ投げ込み、宙ぶらりにして、その反動と反復運動を楽しんでいた。
かわいそうだと思い少年は竿を奪い取ってすぐに助けてやった。
楽しいことが、かえって彼等の冷やかしを生むのかと思うと、なんだかこれから先の釣り自体も興ざめしたというのである。
梅雨になると雨蛙や赤蛙、そしてウシガエルがやってくる。
じっとしているこの雨蛙は雨がないときは一日中同じ姿勢でその場にいる。彼は今日もいるだろうかと、そこへやってきた。






