5:化学物質過敏症 ―歴史,疫学と機序― | 化学物質過敏症 runのブログ

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・5)その他の仮説
一部の研究者は,MCS について,セリエ(Selye H)のストレス学説をモデルとした生体総負荷量限界(Totalbody load)説を提唱している。

例として,McFadden は,化学物質による硫酸抱合経路の障害を仮定している(40)。

セリエの考え方は,化学物質が体内に蓄積されてゆき,その蓄積量が生体の許容量を越えてしまうと様々な病的な反応が起こるとする仮説である。

彼は,脳下垂体-副腎系のホルモン作用が生体への有害刺激に対する一連の防衛機構を有しているとして,これを汎適応症候群と呼んだ (41, 42)。

この反応は警告反応期・適応期(または抵抗期)・疲弊期の三つの段階に分けられ,警告反応期には生体が強いストレッサーに対してショック状態を呈する。

その後,生体は適応期(あるいは抵抗期)に入り,適応能力によりストレスに順応するようになる。
ストレスが持続すると,生体は適応エネルギーを消耗し尽くし,病的な症状を起こす疲弊期へと移行する。

生体総負荷量限界説では,化学物質がストレッサーとして想定される。
6)最近の研究
以上のような様々な報告があるが,2000 年以降の論文は少なく,機序の解明は停滞している。筆者らはこうした状況を打開すべく,新しい研究手法の一つであるメタボロミクスを化学物質過敏症の解析に応用した。詳細は筆者らの既報に詳しいので参照されたい (43)。
メタボロミクスは,代謝の実態および細胞,組織,器官,個体,種の各階層でそれぞれ微妙に異なる代謝経路の多様性の総体を,バイオインフォマティクス的手法をもとに研究する方法論である。

生体内には,DNAやタンパク質のほかに,糖,有機酸,アミノ酸など多くの低分子が存在し,その種類は数千種に及ぶ。

これらの物質の多くは,酵素などの代謝活動によって作り出された代謝物質である。

細胞の代謝物質の網羅的解析(メタボロミクス)は,機序が未知な疾患の解明に有効であることが推察される。

筆者らは,専門医によって化学物質過敏症と診断された症例群 9 人と対照群 9 人を対象としてメタボロミクスを実施し,症例群においてアミノ酸の減少と短鎖脂肪酸の増加という結果を得た。

その機序や意義の解明はこれからであるが,今後,症例を積み重ねて,病態の解明や治療につながる突破口にしたいと考えている。